平成28年度 第101回 薬剤師国家試験問題
一般 理論問題 - 問 117

Pin Off  未ブックマーク    |  |  |   
問 117  正答率 : 61.2%

 国家試験問題

国家試験問題
ヒト細胞における既知遺伝子の発現をPCR(polymerase chain reaction)法により検出するために以下の実験を行った。実験方法と考察に関する記述のうち、正しいのはどれか。2つ選べ。

【実験】 ヒト細胞から抽出したRNAを用いて、逆転写反応により相補的DNA(cDNA)を合成した。このcDNAを鋳型として、既知遺伝子の部分的塩基配列を増幅する特異的なセンスプライマー及びアンチセンスプライマーを用いて、定法に従い24、26、29及び33サイクルでのPCR法を行った。得られた増幅DNA断片をDNA検出試薬を含むアガロースゲル電気泳動法にて分離し、図のような結果(レーン1〜4)を得た。なお、レーン番号の順序は、サイクル数の順序とは一致しない。また、各サイクルでのDNA増幅率はほぼ100%であり、上記サイクル数の間では、DNAは指数関数的に増幅された。
スクリーンショット 2016-08-02 1.28.30.png


1 PCRとは、DNAの熱変性→プライマーのアニーリング→DNA鎖の合成・伸長からなる3段階反応を同一の温度下において繰り返すことで、目的DNAを増幅する反応である。


2 本実験で行った逆転写反応では、mRNAの5´末端に相補的な配列をもつプライマーを用いた。


3 レーン1〜4のDNA断片のうち、レーン1は26サイクルのDNA断片と考えられる。


4 図の結果より、増幅されたDNA断片は正の電荷を帯びていると考察できる。


5 図中のレーン2とレーン3では、両者のDNA量は理論上約16倍異なると考察される。

 解説動画  ( 00:00 / 26:38 )

限定公開

 ビデオコントロール

 解説動画作成を要望!

 解答を選択

問 117    

 e-REC解説

解答 3、5

PCR(Polymerase Chain Reaction)法は、DNAポリメラーゼがデオキシリボヌクレオシド三リン酸を基質として、プライマーの3´位のOH基にデオキシリボヌクレオシド一リン酸を順次結合していくことで、新生鎖を5´→3´の方向(鋳型DNAの3´→5´の方向)へ伸長することを利用して、特定のDNA領域のみを短時間で大量に増幅することができる。PCR法の概要を次に示す。
スクリーンショット 2016-08-02 1.29.07.png
① 二本鎖DNAを熱変性(高温条件下)により一本鎖にする。
② 熱変性より、少し低い温度に保つことで各一本鎖DNAにおける増幅すべき領域の3´末端側の塩基配列に相補的なプライマー(DNAプライマー)を結合させる(アニーリング)。
③ 耐熱性DNAポリメラーゼを用いて、各一本鎖DNAに相補的なDNA鎖(新生鎖)を5´→3´の方向へ伸長(合成)する。
④ ①〜③を繰り返すことにより、目的とするDNA領域のみを大量に増幅することができる。

本問はRT-PCR(Reverse Transcription-Polymerase Chain Reaction)法はPCR法を利用したcDNAクローンの合成法である。RT-PCR法は、DNAではなくmRNAから始めるという点ではPCR法と異なり、mRNAをDNAに変換する必要がある。通常は、mRNA→DNAの変換は逆転写酵素とアンチセンスプライマーを用いて行なう。mRNAを鋳型として一本鎖cDNAを合成し、熱変性の後、センスプライマーを用いて一本鎖cDNAを二本鎖cDNAに変換する。その後、二本鎖cDNAをPCR法で増幅させる。
スクリーンショット 2016-08-02 1.30.56.png


1 誤
PCRとは、 DNAの熱変性→プライマーのアニーリング→DNA鎖の合成・伸長からなる3段階反応を異なる温度下において繰り返すことで、目的DNAを増幅する反応である。なお、DNAの熱変性は95℃前後、プライマーのアニーリングは45℃〜60℃、DNA鎖の合成伸長は70℃前後で行われる。

2 誤
本実験で行った逆転写反応では、mRNAの3´末端に相補的な配列をもつプライマー(アンチセンスプライマー)を用いる必要がある(前記参照)。

3 正
本実験ではDNAが指数関数的に増幅されるため、図の増幅DNA断片の結果から、レーン1は26サイクル、レーン2は33サイクル、レーン3は29サイクル、レーン4は24サイクルのDNA断片であると考えられる。

4 誤
増幅DNA断片の結果において、陰極(-)から陽極(+)への泳動が起こっているため、DNA断片は負電荷を有していると考えられる。これは、DNAが構造中にリン酸残基を含むためであると推測できる。

5 正
PCR法ではDNAが指数関数的に増加するため、1サイクル増幅させると2つ(21より)のDNAが生成する。2サイクル増幅させると4つ(22より)、3サイクル増幅させると8つ(23より)のDNAが生成されると考えられる。レーン2は33サイクル、レーン3は29サイクルのDNA断片であると考えられるため、233÷229=24=16よりDNA量は理論上約16倍異なると考えられる。

 Myメモ - 0 / 1,000

e-REC 過去問解説システム上の [ 解説 ] , [ 解説動画 ] に掲載されている画像・映像・文章など、無断で複製・利用・転載する事は一切禁止いたします