平成31年度 第104回 薬剤師国家試験問題
一般 理論問題 - 問 137,138,139,140

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問 137  正答率 : 61.4%
問 138  正答率 : 56.1%
問 139  正答率 : 66.0%
問 140  正答率 : 73.7%

 国家試験問題

国家試験問題
新生児マススクリーニングは、先天性代謝異常を出生直後に早期発見し、栄養療法による早期治療を目指す事業である。近年、新たな新生児マススクリーニングとしてタンデムマス法を用いた脂肪酸代謝異常症の検査が始まった。検査できる主な脂肪酸代謝異常症には、カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼ-1(CPT-1)欠損症、極長鎖アシルCoA脱水素酵素(VLCAD)欠損症、中鎖アシルCoA脱水素酵素(MCAD)欠損症がある。図1はヒトにおける長鎖脂肪酸と中鎖脂肪酸の代謝の概略である。ミトコンドリアにおいて、VLCADは長鎖脂肪酸、MCADは中鎖脂肪酸のβ酸化に関与する。なお、3種の代謝異常症に関わる酵素を     で示している。
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問137
図1に関する記述のうち、正しいのはどれか。2つ選べ。

1 長鎖脂肪酸の分解の律速段階は、CPT-1によるカルニチンのアシル化である。


2 CPT-1は、脂肪酸生合成の中間体のマロニルCoAにより活性化される。


3 脂肪酸のβ酸化では、NADHからNADが生成される。


4 β酸化により生成したアセチルCoAは、クエン酸回路で利用される。


5 VLCAD欠損症の患者では、中鎖脂肪酸からアセチルCoAを産生できない。




問138
β酸化による脂肪酸の代謝反応のうち、脂肪酸と補酵素A(CoASH)が縮合したチオエステルaからアセチルCoA(化合物f)が生じる経路を示す。下の記述のうち正しいのはどれか。2つ選べ。ただし、ア及びイは補酵素であり、チオエステルはエステルと同様の反応を起こすものとする。
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1 化合物aからbへの変換には、補酵素アが必要である。


2 化合物bからcへの反応は、酸化反応である。


3 化合物cからdへの変換には、補酵素イが必要である。


4 化合物dからe及びfへの反応では、CoASHが求核剤としてはたらいている。


5 化合物dのチオエステルのα-水素の酸性度は、化合物aのものよりも低い。




問139
新生児マススクリーニングで使われているタンデムマス法は、2段の質量分離部を用いる方法である。以下の記述のうち、正しいのはどれか。2つ選べ。

1 タンデムマス法では、質量分離部が並列に配置されている。


2 試料は冷蒸気法によってイオン化される。


3 1段目の質量分離部で選択される特定のイオンのことを、プリカーサーイオンという。


4 プリカーサーイオンは、電子を衝突させることによりさらに解離される。


5 タンデムマス法は、アミノ酸や有機酸などの代謝物の一斉分析にも有用である。




問140
図2は、タンデムマス法により測定した新生児A〜Eの血液試料中のアシルカルニチン分子種の定量結果である。それぞれの疾患の診断基準を以下に示す。C8、C16及びC18の数字は、アシルカルニチンに含まれる脂肪酸の炭素数を、C14:1は炭素数と二重結合が1つあることを表す。またC0は、遊離カルニチンを表す。ここでは炭素数12以上を長鎖脂肪酸、炭素数8と10を中鎖脂肪酸とする。

<疾患の診断基準>
CPT-1欠損症  C0/(C16+C18)>100 かつ C0>60 µmol/L
VLCAD欠損症 C14:1>0.4 µmol/L
MCAD欠損症  C8>0.3 µmol/L
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図2の測定結果から考えられる新生児A〜Eの疾患名と、図1の代謝経路に基づいて実施すべき栄養療法の組合せのうち、正しいのはどれか。2つ選べ。
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問 137    
問 138    
問 139    
問 140    

 e-REC解説

問137 解答 1、4

脂肪酸のβ酸化は、原則としてミトコンドリアマトリックスで行われている。ミトコンドリアにおけるアシルCoAは、β酸化によりカルボキシ基(−COOH基)側から、炭素原子2つずつ酸化的分解されることにより、アセチルCoAを生成し、その他にFADH2とNADHなどが生成する(問138解説参照)。なお、アセチルCoAはクエン酸回路に入り、FADH2とNADHは電子伝達系に入りATP生成に利用される。

1 正
図1より、長鎖脂肪酸は細胞質でアシルCoAとなり、CPT−1によりカルニチンと縮合すると、アシルカルニチンとなってミトコンドリア内膜を通過する。その後、ミトコンドリアマトリックスにおいて、再びアシルCoAに変換され、β酸化を受ける。その際、CPT−1は長鎖脂肪酸の分解過程の律速段階となる。

2 誤
CPT−1は、脂肪酸の合成反応の中間体のマロニルCoAにより抑制される。一般に、脂肪酸の合成とβ酸化(分解)は同時に起こらないように調節されている。脂肪酸の合成が促進されているときは、中間体のマロニルCoAの増加によりCPT−1の活性が抑制される。その後、CPT−1の活性の抑制により、長鎖脂肪酸のアシルCoAのミトコンドリアマトリックスへの輸送も抑制されるため、脂肪酸のβ酸化(分解)が抑制される。

3 誤
脂肪酸のβ酸化では、NADからNADHが生成する(問138解説参照)。

4 正
前記参照

5 誤
図1より、中鎖脂肪酸はβ酸化において、直接中鎖アシルCoA脱水素酵素(MCAD)が関与するため、極長鎖アシルCoA脱水素酵素(VLCAD)は関与しない。そのため、VLCAD欠損症の患者であっても、中鎖脂肪酸からアセチルCoAを産生できる。なお、VLCAD欠損症の患者が、アセチルCoAを産生できない脂肪酸は、長鎖脂肪酸である。


問138 解答 1、4

本問の反応は、β酸化により1分子のアセチルCoA(f)とC原子が2つ減少した脂肪酸アシルCoAが得られる反応である。
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1 正
補酵素アはFAD(フラビンアデニンジヌクレオチド)である。化合物aからbへの変換は酸化反応であり、補酵素FADが必要である(上図参照)。

2 誤
化合物bからcへの反応は、アルケンに対するH2Oの付加反応であり、酸化反応ではない。
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3 誤
化合物cからdへの変換は水素原子がなくなっていることから酸化反応であり、その際補酵素NADが必要となる(上図参照)。

4 正
化合物dからe及びfへの反応は、逆クライゼン縮合であり、化合物dのβ−炭素に対して、CoASHが求核剤として働いている。
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5 誤
α−炭素に対して電子求引基が隣接する数が多いほどHが外れやすく、α−水素の酸性度は高くなる。化合物aはα−炭素に隣接する電子求引基のC=Oの数が1つであるのに対し、化合物dは2つである。ゆえに、化合物dのチオエステルのα-水素の酸性度は、化合物aのものよりも高い。
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問139 解答 3、5

タンデム型質量分析計(MS/MS)とは、2つの質量分析計を直列に繋げたものである。MS/MSでは、1つ目の質量分析計(MS1)で試料をイオン化し、このうち特定の質量数のプリカーサーイオン(前駆イオン)を選択し、このイオンを衝突活性化室で不活性ガスなどと衝突させることでさらにフラグメンテーションを起こさせる。これにより生じたプロダクトイオンを2つ目の質量分析計(MS2)で選択する。MS/MSは、混合成分中の特定のイオンの構造解析が可能で、新生児の先天性代謝異常を検査する新生児マススクリーニングにおいて、アミノ酸や有機酸などの代謝物の一斉分析に有用である。
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問140 解答 2、4

1 誤
図2より、新生児Aは、C0>60 µmol/Lであるが、それ以外の測定項目は診断基準を超えていないため、CPT−1欠損症、VLCAD欠損症、MCAD欠損症のいずれの疾患にも該当しない。

2 正
図2より、新生児Bは、測定項目のC0/(C16+C18)、C0及びC8は診断基準を超えていないが、C14:1>0.4 µmol/Lであるため、VLCAD欠損症と考えられる。VLCAD欠損症に罹患した新生児は、長鎖脂肪酸の代謝が抑制されるため、栄養療法として中鎖脂肪酸トリグリセリドを構成成分とするミルクが用いられる。

3 誤
図2より、新生児Cは、測定項目のC0/(C16+C18)、C0及びC14:1は診断基準を超えていないが、C8>0.3 µmol/Lであるため、MCAD欠損症と考えられる。MCAD欠損症に罹患した新生児は、中鎖脂肪酸の代謝が抑制されるため、栄養療法として中鎖脂肪酸トリグリセリドを構成成分とするミルクは禁忌である。

4 正
図2より、新生児Dは、測定項目のC14:1とC8は診断基準を超えていないが、C0/(C16+C18)>100かつC0>60 µmol/Lであるため、CPT-1欠損症と考えられる。CPT-1欠損症に罹患した新生児は、アシルCoAをアシルカルニチンに代謝することができないため、栄養療法として代謝にカルニチンを必要しない中鎖脂肪酸トリグリセリドを構成成分とするミルクが用いられる。

5 誤
図2より、新生児Eは、すべての診断基準値を下回っているため、CPT−1欠損症、VLCAD欠損症、MCAD欠損症のいずれの疾患にも該当しない。

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