平成30年度 第103回 薬剤師国家試験問題
一般 実践問題 - 問 274,275

Pin Off  未ブックマーク    |  |  |   
問 274  正答率 : 65.1%
問 275  正答率 : 49.6%

 国家試験問題

国家試験問題
50歳男性。体重70 kg。血清アルブミン値4.1 g/dL、血清クレアチニン値2.0 mg/dL。重症のMRSA院内感染によりバンコマイシン塩酸塩を1日1回間欠点滴投与することになった。初回は負荷投与する予定である。この患者におけるバンコマイシンの分布容積は0.7 L/kg、半減期は24時間と見積もられている。血液培養の結果、バンコマイシンによる最小発育阻止濃度(MIC)は1.0 µg/mLであった。

問274(実務)
バンコマイシン塩酸塩による治療及びTDMに関する記述のうち、正しいのはどれか。2つ選べ。

1 この患者では、腎機能の低下により、半減期が延長している。


2 肝毒性の発現を回避するため、バンコマイシンのトラフ値は20 µg/mL以下にすることが推奨されている。


3 治療効果の指標として、最高血中濃度/MICを用いる。


4 レッドネック症候群を予防するために、1時間以上かけて点滴する。


5 この患者では、アルブミンが大量に尿中へ漏出しているため、タンパク結合率が低下している。




問275(薬剤)
2回目投与直前のバンコマイシンの血中濃度が10 µg/mLとなることを想定し、バンコマイシン塩酸塩の初回負荷投与を行いたい。また、定常状態におけるトラフ値を15 µg/mLとしたい。バンコマイシンの負荷投与量と維持投与量の組合せとして適切なのはどれか。1つ選べ。ただし、投与量の計算において、投与に要する時間は投与間隔に対して無視できるほど短いものとし、投与中における体内からのバンコマイシンの消失は無視できるものとする。
スクリーンショット 2018-09-05 13.23.31.png

 解説動画  ( 00:00 / 0:00:00 )

限定公開

 ビデオコントロール

 解説動画作成を要望!

 解答を選択

問 274    
問 275    

 e-REC解説

問274 解答 1、4

1 正
血清クレアチニン値は腎機能の指標として用いられており、男性基準値は0.7〜1.3 mg/dLである。設問文より、本患者の血清クレアチニン値は2.0 mg/dLであり基準値より高値を示しているため腎機能が低下していると考えられる。バンコマイシンは腎排泄型薬物であり、本患者の腎機能の低下によりバンコマイシンの半減期(正常時は4〜6時間)が24時間に延長していると考えられる。

2 誤
バンコマイシンのトラフ値が20 µg/mL以上になると腎障害発現の可能性が高くなるため、腎障害の発現を回避するためトラフ値を20 µg/mL以下にすることが推奨されている。

3 誤
バンコマイシンなどのグリコペプチド系抗菌薬の治療効果の指標として、血中濃度時間曲線下面積(AUC)/最小発育阻止濃度(MIC)を用いる。なお、最高血中濃度/MICを治療効果の指標としている抗菌薬は、濃度依存性抗菌薬のニューキノロン系やアミノグリコシド系抗菌薬である。

4 正
バンコマイシンは急速なワンショット静注又は短時間での点滴静注を行うとヒスタミンを遊離させ、レッドネック症候群(顔、首などに紅斑性充血、痒み等の副作用)を引き起こすことがある。そのため、レッドネック症候群を予防するためにゆっくりと投与する必要があり1時間以上かけて点滴する。

5 誤
血清アルブミン値の基準値は、3.8 g/dL〜5.3 g/dLである。設問文より、本患者のアルブミン値は4.1 g/dLであり基準値内であるため、アルブミンが大量に尿中へ漏出している可能性は低い。


問275 解答 4

設問文において、「1日1回間欠点滴投与」と記載されているため投与間隔(τ)は24時間である。また、「半減期(t 1/2)は24時間」とあるため、投与間隔と半減期が等しい(τ=t 1/2)状態で投与していることがわかる。
また、実際の投与方法は繰り返し点滴投与であるが、「投与に要する時間は投与間隔に対して無視できるほど短い」「投与中における体内からのバンコマイシンの消失は無視できる」とあるため、繰り返し静脈内投与を行っている問題とみなして解答することができる。

初回負荷投与量(D)は①式で表される。
 
D=C0負×Vd…①

C0負:初回負荷投与直後の血中薬物濃度
Vd:分布容積

τ=t 1/2で繰り返し投与した場合、2回目投与直前の血中薬物濃度は初回投与直後の血中薬物濃度の半分の値を示す。よって、C0負は設問文に「2回目投与直前のバンコマイシンの血中濃度が10 µg/mLとなることを想定」とあり、C0負=2×10 µg/mL=20 µg/mLとなる。
したがって、①式にC0負=20 µg/mL、Vd=0.7 L/kg×70 kgを代入すると、バンコマイシンの初回負荷投与量Dを以下のように求めることができる。

D=20 µg/mL×0.7 L/kg×70 kg
  =980 mg
  ≒1 g

維持投与量(D)は②式で表される。

D=C定常状態×Vd…②

C定常状態:定常状態のピーク値とトラフ値の濃度差

通常、τ=t 1/2で繰り返し投与した場合、定常状態におけるトラフ値はピーク値の半分となる。
よって、C定常状態は設問文に「定常状態におけるトラフ値を15 µg/mLとしたい」とあることからピーク値が30 µg/mLであるため、C定常状態=30 µg/mL-15 µg/mL=15 µg/mL
したがって、②式にC定常状態=15 µg/mL、Vd=0.7 L/kg×70 kgを代入すると、バンコマイシンの維持投与量Dを以下のように求めることができる。

D=15 µg/mL×0.7 L/kg×70 kg
  =735 mg
  ≒0.75 g

 Myメモ - 0 / 1,000

e-REC 過去問解説システム上の [ 解説 ] , [ 解説動画 ] に掲載されている画像・映像・文章など、無断で複製・利用・転載する事は一切禁止いたします