令和05年度 第108回 薬剤師国家試験問題
一般 実践問題 - 問 296,297

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問 296  正答率 : 45.1%
問 297  正答率 : 88.8%

 国家試験問題

国家試験問題
71歳女性。身長152 cm、体重48 kg。12年前に2型糖尿病と診断されインスリン強化療法を受けた。最近は病状が安定し、経口薬でコントロールされている。以前から血圧が低く、近年は立ちくらみもあり、不定愁訴も多い。最近1年間は、月1回通院して、処方1の薬剤を服用していた。前回(1ヶ月前)の検査値を下に示す。

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(身体所見及び検査値:1ヶ月前の前回受診時)
血圧90/64 mmHg、心拍70拍/分、赤血球470×104 /µL、白血球4,800 /µL、
血小板28×104 /µL、Hb 12.1 g/dL、K 3.7 mEq/L、AST 26 IU/L、
ALT 40 IU/L、γ−GTP 25 IU/L、総ビリルビン0.9 mg/dL、
CK(クレアチンキナーゼ)23 IU/L(基準値(女性)20〜150 IU/L)、
血清アルブミン3.5 g/dL、血清クレアチニン1.1 mg/dL、
eGFR 38.0 mL/min/1.73 m2、血糖115 mg/dL、HbA1c 6.7%、
BNP 12.0 pg/mL(基準値<18.4 pg/mL)
尿糖(+)、尿蛋白(+)、尿中アルブミン/クレアチニン比150 mg/gCr、
尿中ケトン体(-)、下肢の浮腫(±)、両側アキレス腱反射低下

問296(病態・薬物治療)
この患者の状態について、あてはまるのはどれか。2つ選べ。

1 ネフローゼ症候群


2 慢性腎臓病(CKD)


3 慢性心不全


4 糖尿病性神経障害


5 肝硬変




問297(実務)
前回の受診時に「夜中に足がつる」、「おなかの調子が悪い」と訴えがあり処方2が追加された。

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患者から「その後、次第に筋肉痛のような痛みが持続するようになった」と訴えがあり、薬剤師は、今回の受診時の検査値を前回と比較した。

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医師に処方変更を提案する内容として、適切なのはどれか。1つ選べ。

1 酪酸菌(宮入菌)製剤を中止する。


2 芍薬甘草湯を中止する。


3 シタグリプチンリン酸塩水和物を減量する。


4 フロセミドを増量する。


5 インスリン自己注射を追加する。

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問 296    
問 297    

 e-REC解説

問296 解答 2、4

1 誤
ネフローゼ症候群は、腎糸球体係蹄障害によるタンパク透過性亢進に基づく大量の尿タンパク(主としてアルブミン)と、これに伴う低タンパク血症を特徴とする症候群であり、3.5 g/day以上のタンパク尿および3.0 g/dL以下の低アルブミン血症の両所見が基準を満たした場合に診断される。本患者の血清アルブミンは3.5 g/dLと低アルブミン血症ではないため、ネフローゼ症候群は除外される。

2 正
慢性腎臓病(CKD)は、腎障害や腎機能の低下が持続する疾患であり、①尿異常、画像診断、血液、病理で腎障害の存在が明らかで、特に0.15 g/gCr以上のタンパク尿(30 mg/gCr以上のアルブミン尿)があること、②eGFR<60 mL/分/1.73 m2のいずれか、または両方が3ヶ月以上持続することで診断される。本患者の1ヶ月前の検査値のeGFR 38.0 mL/min/1.73 m2、尿タンパク(+)、12年前に、腎障害を合併する可能性がある糖尿病と診断されていることなどから、CKDの状態にあると考えられる。

3 誤
慢性心不全は、慢性的な心機能障害により心ポンプ機能の代償機転が破綻した結果、呼吸困難や倦怠感、浮腫などの症状が出現し、それに伴い運動耐容能が低下する臨床症候群である。心臓の代償機転の一つとしてBNPの上昇があり、心不全ではその値が高値を示す。本患者はBNP 12.0 pg/mL(基準値<18.4 pg/mL)と正常値内であるため、慢性心不全は除外される。

4 正
糖尿病性神経障害は、糖尿病の三大合併症の一つで、知覚神経や自律神経、運動神経などの末梢神経が障害されることで知覚神経異常に伴う感覚異常、自律神経異常に伴う消化器障害や血圧異常、運動神経障害に伴う筋力低下などを認める。本患者は血圧が低く、立ちくらみや不定愁訴も多いという点や、両側アキレス腱反射の低下を認めることから糖尿病性神経障害を合併していると考えられる。

5 誤
肝硬変は、肝臓全体に偽小葉が形成される肝疾患の終末像である。本患者の1ヶ月前の検査で、肝疾患の指標として使用される、AST が26 IU/L(基準値:11 IU/L〜33 IU/L)、ALT が40 IU/L(基準値:6 IU/L〜43 IU/L)、γ−GTPが 25 IU/L(基準値:9 IU/L〜32 IU/L)、総ビリルビンが0.9 mg/dL(基準値:0.4〜1.5 mg/dL)と肝機能障害を認めないことから肝硬変は除外される。


問297 解答 2

前回と比較して今回の受診時の検査値では、血圧、AST、ALT、総ビリルビン値、CKの上昇、血中カリウム値の低下が認められる。さらに、この検査値の変化をもたらした原因が処方2にあること、患者から「その後、次第に筋肉痛のような痛みが持続するようになった」と訴えがあったことから、芍薬甘草湯エキス顆粒に含有する甘草が引き起こす、偽アルドステロン症(血圧上昇、血中カリウム値の低下)とそれに伴う横紋筋融解症(逸脱酵素であるAST、CKの上昇)、そして薬剤性肝障害(AST、ALT、総ビリルビン値上昇)の併発が考えられる。なお、これらの副作用が発現した場合、本剤の投与を中止し、カリウム製剤の投与を行うなどの処置が必要である。

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