平成31年度 第104回 薬剤師国家試験問題
一般 実践問題 - 問 228,229

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問 228  正答率 : 64.3%
問 229  正答率 : 91.2%

 国家試験問題

国家試験問題
15歳女性。身長150 cm、体重29 kg。精神的ストレスから最近6ヶ月で10 kgの体重減少があり、月経もない。診察の結果、神経性無食欲症(拒食症)と診断された。特に最近3週間はほとんど食事を摂っておらず意識障害を生じたため、両親に伴われ来院し、緊急入院となった。入院後も食事に強い拒否を示したため、NST(栄養サポートチーム)の管理下で中心静脈栄養法を行うこととなった。

問228(衛生)
入院直前のこの患者の栄養状態に関する記述のうち、適切なのはどれか。2つ選べ。15歳女性の基礎代謝基準値(kcal/kg体重/日)を25とする。

1 基礎代謝量は、同性、同年代の健常人に比べ高い値を示している。
2 身体を構成するタンパク質の分解により生成した糖原性アミノ酸からの糖新生が亢進している。
3 脂肪酸の分解により生成したアセチルCoAからのケトン体の合成が亢進している。
4 コレステロールもエネルギー産生に利用されている。
5 体重が40 kgに回復した場合、身体活動度を1.5とすると、推定エネルギー必要量は2,000 kcal/日となる。


問229(実務)
この患者に行う中心静脈栄養法及びその注意事項として、適切でないのはどれか。1つ選べ。

1 投与エネルギー量は、2,000 kcal/日から開始する。
2 輸液にビタミンB1を添加する。
3 栄養補給後の血清リン濃度の低下に注意し、低下傾向が見られた場合、速やかにリン酸製剤の投与を実施する。
4 必要に応じて亜鉛などの微量元素の補充を行う。
5 患者の様子を見ながら、経腸あるいは経口での栄養補給に変更していく。

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問 228    
問 229    

 e-REC解説

問228 解答 2、3

本患者は神経性無食欲症(拒食症)であり、入院後も食事に拒否反応を示しているため、飢餓状態であると考えられる。

1 誤
基礎代謝量とは、生きていくために必要な最低限のエネルギー代謝量のことであり、基礎代謝基準値に体重を乗じて算出することができる。本患者は拒食症で体重29 kgであり、健常人に比べ明らかに体重が少ないため、基礎代謝量は健常人に比べて低い値を示す。

2 正
本患者は、精神的ストレスから最近6ヶ月で10 kgの体重減少があり、特に最近3週間はほとんど食事を摂っておらず意識障害を生じていることから、入院時は飢餓状態であったと推定することができる。飢餓時では、血糖値が低下しており、血糖値を維持するために、筋肉などの身体を構成するタンパク質の分解が起こり、生成した糖原性アミノ酸からの糖新生(グルコースの生合成)が亢進する。

3 正
本患者は飢餓状態であるため、糖利用が低下している。そのため、肝臓において脂肪酸を分解するβ酸化が亢進し、アセチルCoAが過剰に産生される。一般に、アセチルCoAはクエン酸回路でエネルギーに変換されるが、β酸化により得られた過剰のアセチルCoAはクエン酸回路で処理しきれないため、一部はケトン体(アセトン、アセト酢酸、β−ヒドロキシ酪酸)となり血中へと放出される。その際、アセトンは呼気中に排泄されるが、アセト酢酸とβ−ヒドロキシ酪酸の一部は、脳や筋肉などの肝外組織においてエネルギー源として利用される。

4 誤
コレステロールは、細胞膜の構成成分やステロイドホルモン合成に利用されるが、エネルギー産生に利用されることはない。

5 誤
推定エネルギー必要量は、基礎代謝量に身体活動レベルを乗じて算出する。また基礎代謝量は、基礎代謝基準値に体重を乗じて算出する。15歳女性の基礎代謝基準値が25(kcal/kg体重/日)であるため、本患者の体重が40 kgに回復した場合の基礎代謝量(kcal/日)は以下の通りとなる。

基礎代謝量 = 基礎代謝基準値 × 体重
      = 25(kcal/kg体重/日)× 40(kg)
      = 1000(kcal/日)

また、身体活動レベルを1.5と仮定していることから本患者の体重が40 kgに回復した場合の推定エネルギー必要量は以下の通りとなる。

推定エネルギー必要量 = 基礎代謝量 × 身体活動レベル
           = 1000(kcal/日)× 1.5
           = 1500(kcal/日)


問229 解答 1

本患者のように慢性低栄養状態、拒食症の患者が、急速に十分量の栄養補給を行うとリフィーディング症候群(refeeding syndrome)を引き起こす。リフィーディング症候群とは、慢性的な栄養不良状態が続いている患者に積極的な栄養補給を行うことにより発症する一連の代謝合併症の総称である。症状としては、心不全、不整脈、呼吸不全、意識障害、けいれん発作、四肢麻痺、運動失調、横紋筋融解、尿細管壊死、溶血性貧血、高血糖あるいは低血糖発作、敗血症、肝機能異常などが報告されている。
【発症メカニズム】
飢餓状態や高度の低栄養状態になるとエネルギー産生は、糖を主体としたものから体蛋白質の異化や脂肪分解を主体としたものへと変わっていく(問228参照)。さらに、ミネラルやビタミンなどの不足も併発する。このような状態での急激な糖質・アミノ酸の体内への流入は、インスリン分泌を刺激し、摂取された糖質は細胞内に取り込まれATP産生に利用される他、タンパク合成も励起される。その際、大量のリンが消費され、同時にカリウム、マグネシウムが細胞内に移動するため、それぞれの欠乏症状が出現する。糖代謝によりビタミンBが消費されて欠乏症がおこり、心不全やWernicke脳症、乳酸アシドーシスなどの症状が出現する。さらに、リン欠乏によりATPが減少するため、ATPを多く利用する脳、心臓、筋肉の臓器障害が特に顕著である。また、ヘモグロビンの酸素との親和性を下げる作用があるグリセリン2,3−リン酸(2,3−DPG)の低下によって末梢組織で酸素の遊離ができず、組織の低酸素状態を起こす原因となり、乳酸アシドーシスへとつながる。

1 誤
リフィーディング症候群の高リスク群では、初期投与エネルギーを制限すると同時に必要なミネラルやビタミンが投与される。投与エネルギー量としては「現体重×10 kcal/kg/日(重症では5 kcal/kg/日)」程度から開始し、モニターしながら100~200 kcal/日ずつ増量していき、1週間以上をかけて目標量(25~30 kcal/kg)まで増やす。本患者は、体重29 kgであるため、投与エネルギー量は、290 kcal/日程度から開始するのが妥当である。

2 正
ビタミンB1が不足すると、乳酸アシドーシスやウェルニッケ脳症などを引き起こす可能性がある(前期参照)。そのため、輸液にビタミンB1を添加する必要がある。

3 正
前記参照

4 正
前記参照

5 正
小腸は、栄養素の消化・吸収の大部分を担うとともに、腸粘膜では病原体の侵入を防いでいる。しかし、長期間にわたり消化管を使用しないと、消化管機能や腸管免疫能が低下してしまうため、患者の様子を見ながら、経腸あるいは経口での栄養補給に変更していく必要がある。

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