令和05年度 第108回 薬剤師国家試験問題
一般 実践問題 - 問 198,199

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問 198  正答率 : 59.6%
問 199  正答率 : 68.0%

 国家試験問題

国家試験問題
87歳男性。畑仕事中に意識がもうろうとなり、A病院に救急搬送された。現病歴と服用している薬剤の有無は不明であった。検査の結果、血清ナトリウム値が108 mEq/Lと低ナトリウム血症を認めた。治療のため、3%塩化ナトリウム水溶液での点滴加療を開始することにした。処方内容や投与方法など治療方針について医師からICU担当薬剤師に確認の依頼があった。

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A病院の医療安全マニュアルには、生理食塩液に対する浸透圧比4を超える注射液を投与する場合は中心静脈より投与することと記載されている。

問198(実務)
ICU担当薬剤師の対応に関する記述のうち、誤っているのはどれか。1つ選べ。
なお、塩化ナトリウムの式量は58.5とし、水溶液中で完全電離しているものとする。

1 処方どおりに調製すれば、3%塩化ナトリウム水溶液となるため、問題なしと判断した。


2 算出された浸透圧比が4を超えていたので、中心静脈からの投与を依頼した。


3 低ナトリウム血症の更なる悪化は、痙れんや昏睡を起こす可能性があると情報提供した。


4 急激な血清ナトリウム値の上昇は、浸透圧性脱髄症候群を起こす可能性があると情報提供した。


5 低ナトリウム血症の原因として、抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(SIADH)も考えられると情報提供した。




問199(物理・化学・生物)
塩化ナトリウム水溶液におけるイオン強度や活量に関する記述のうち、正しいのはどれか。2つ選べ。

1 イオン強度は、NaやClの電荷数に依存しない。


2 イオン強度が高くなると、水中のNaとClの間の相互作用は強くなる。


3 搬送時の血清ナトリウム値と等しいNa濃度の塩化ナトリウム水溶液のイオン強度は54 mmol/Lである。


4 塩化ナトリウム水溶液の活量aはa=γ・xで表される。ただし、γは活量係数、xはモル分率である。


5 Na、Clの活量をそれぞれa、aとすると、塩化ナトリウム水溶液の平均活量a±はa±=(a・a)/2で表される。

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問 198    
問 199    

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問198 解答 2

1 正しい
生理食塩液(0.9%塩化ナトリウム水溶液)500 mL中に含まれるNaClの量は、
(0.9 g / 100 mL) × 500 mL = 4.5 g、10%塩化ナトリウム注射液150 mL中に含まれるNaClの量は、(10 g/100 mL) × 150 mL = 15 gである。
上記2液を混合した輸液は、650 mL(= 500 mL + 150 mL)中に、NaClを19.5 g(= 4.5 g + 15 g)含むため、その濃度は、(19.5 g / 650 mL) × 100 = 3%となる。

2 誤っている
浸透圧比(生理食塩液に対する浸透圧比)とは、生理食塩液(0.9%塩化ナトリウム水溶液)のオスモル濃度(mOsm:1 L中に溶けている全溶質のmmolの和)を1としたときの、各製剤のオスモル濃度の比である。

生理食塩液のオスモル濃度は、以下のように求められる。

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NaClは、水溶液中で完全電離しているものとするため、生理食塩液中のNa+のモル濃度は、154 mmol/L、Cl-のモル濃度は154 mmol/Lである。
以上より、生理食塩液のオスモル濃度は、308 mOsm(= 154 mmol/L + 154 mmol/L)となる。

3%塩化ナトリウム水溶液のオスモル濃度は、以下のように求められる。

スクリーンショット 2023-07-18 14.05.10.png

NaClは、水溶液中で完全電離しているものとするため、生理食塩液中のNa+のモル濃度は、513 mmol/L、Cl-のモル濃度は513 mmol/Lである。
以上より、3%塩化ナトリウム水溶液のオスモル濃度は、1026 mOsm(= 513 mmol/L + 513 mmol/L)となる。

よって、3%塩化ナトリウム水溶液の浸透圧比をXとすると、

308 mOsm:1026 mOsm = 1:X

これを解いて、X=3.3となる。
算出された浸透圧比が4を超えていないので、処方どおり、末梢静脈からの投与でよい。

3 正しい
低ナトリウム血症の更なる悪化は、痙れんや昏睡を起こす可能性があるため、情報提供することは適切である。

4 正しい
低ナトリウム血症の患者に対して、急激に血清ナトリウム値を上昇させると、浸透圧性脱髄症候群を起こす可能性があるため、情報提供することは適切である。

5 正しい
低ナトリウム血症の原因として、抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(SIADH)による希釈性低ナトリウム血症も考えられるため、情報提供することは適切である。


問199 解答 2、4

1 誤
イオン強度は、以下の式より求められる。

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よって、イオン強度はNaやClの電荷数に依存する。

2 正
イオン強度は、電解質溶液中のイオン間相互作用の強さを表す指標であるため、イオン強度が高くなると、水中のNaとClの間の相互作用は強くなる。

3 誤
NaClは水溶液中で完全電離しているものとするため、Na濃度とCl濃度は等しくなる。よって、搬送時の血清ナトリウム値と等しいNa濃度(108 mEq/L=108 mmol/L)の塩化ナトリウム水溶液は、Cl濃度も108 mEq/L=108 mmol/Lとなる。
以上のことより、イオン強度(I )は、下記のように計算できる。

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4 正
活量(a)とは、実在溶液における実効濃度(実効モル分率)であり、モル分率(x)に理想溶液からのずれを表す活量係数(γ)を乗ずることで、a=γ・xと表される。

5 誤
平均活量a±は、構成イオンの活量であるaとaの相乗平均(幾何平均)で下記のように表される。

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