令和04年度 第107回 薬剤師国家試験問題
一般 実践問題 - 問 272,273,274,275

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問 272  正答率 : 57.4%
問 273  正答率 : 83.6%
問 274  正答率 : 82.5%
問 275  正答率 : 66.2%

 国家試験問題

国家試験問題
65歳男性。身長160 cm、体重58 kg。開胸心血管バイパス術施行後4日目に38.5℃の発熱を来し、喀痰、血液培養、尿、鼻汁を用いたグラム染色の結果、陽性であった。細菌培養の結果が得られるまで48時間程度を要することから、院内感染制御チームへのコンサルトの結果、MRSA感染症を疑い、当日夜よりバンコマイシン点滴静注用の14日間投与が決定された。バンコマイシン投与前の検査値を以下に示す。

(検査値)
白血球数13,000 /µL、CRP 7.5 mg/dL、血清クレアチニン値1.2 mg/dL、BUN 17.6 mg/dL、クレアチニンクリアランス(Ccr)50 mL/min

バンコマイシンの投与量決定には母集団薬物動態解析により得られた以下のパラメータを用いた。

CL(L/hr)=0.05×Ccr(mL/min)[Ccrが85 mL/min以下の場合]
CL(L/hr)=3.5[Ccrが85 mL/minより大きい場合]
Vd(L)=60.7

問272(薬剤)
母集団薬物動態解析及びこの患者の投与量決定に関する記述のうち、正しいのはどれか。2つ選べ。

1 患者集団の平均的な薬物動態パラメータは、年齢、体重、Vdが同じ患者群を母集団として解析することで得られる。


2 バンコマイシンのクリアランスは最小発育阻止濃度(MIC)により影響をうける。


3 この患者の投与量決定には分布容積60.7 Lとクリアランス2.5 L/hを用いた。


4 患者の1点の血中濃度測定値、患者情報、及び母集団パラメータとその変動要因を用いて、ベイジアン法により患者個々の薬物動態パラメータが推定できる。


5 母集団パラメータを求めるためには、集団ごとに血液採取時間を一定にする必要がある。




問273(薬理)
バンコマイシンの治療効果及び副作用に関する記述のうち、正しいのはどれか。2つ選べ。

1 ペンタペプチドC末端のD−Ala−D−Alaに結合して、細胞壁合成を抑制する。


2 細菌リボソーム30Sサブユニットに結合して、タンパク質合成を抑制する。


3 翻訳過程の50S開始複合体の形成を阻害して、タンパク質合成を抑制する。


4 ヒスタミンの遊離を促進して、レッドネック症候群を引き起こす。


5 非ステロイド性抗炎症薬との併用により、痙れんを引き起こす。




問274(実務)
バンコマイシン投与後の副作用確認のために薬剤師が行うモニタリングとして、適切なのはどれか。2つ選べ。

1 投与直後はアナフィラキシーショックが発現することがあるので、皮疹や呼吸困難の有無を確認する。


2 高血圧が発現しやすいので、朝晩の血圧を確認する。


3 第8脳神経障害の副作用が発現することがあるので、視力を確認する。


4 低アルブミン血症の発現頻度が高いので、面談時に全身のむくみを確認する。


5 腎障害が発現することがあるので、血清クレアチニン値や尿量を確認する。




問275(実務)
バンコマイシン投与開始後、以下の経過をたどった。

1日目 (バイパス術施行後4日目)バンコマイシン点滴静注用の投与開始。
3日目 血液サンプルの細菌培養でMRSA陽性。そのMICは2.0 µg/mL。
7日目 体温36.5℃。
10日目 CRP 0.2 mg/dL。体温36.2℃。白血球数2,500 /µL。

以上の治療経過を踏まえた病棟担当薬剤師の主治医への対応について、最も適切なのはどれか。1つ選べ。

1 バンコマイシン散への変更を提案した。


2 バンコマイシンの目標血中濃度は15 µg/mLにするべきであると提案した。


3 既に解熱しているので、バンコマイシンを全期間投与


4 再度、喀痰、血液、尿、鼻汁の細菌検査を依頼するよう提案した。


5 バンコマイシンによる血球減少を疑い、投与中止を提案した。

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問 272    
問 273    
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問272 解答 3、4

母集団薬物動態解析とは、薬物を投与した多くの患者群から集約されたデータを解析することによって、母集団パラメータを収集していく方法である。PPKより得られる母集団パラメータには、薬物動態パラメータの平均値、患者間変動(個体間変動:年齢、性別、体重、腎機能など)、患者内変動(個体内変動:測定誤差など)がある。

1 誤
患者集団の平均的な薬物動態パラメータは、多くの患者群を解析することで得られるものであり、年齢、体重、Vdが同じ患者群を母集団として解析する必要はない。

2 誤
最小発育阻止濃度(MIC)は、菌の発育を阻止するために必要な抗菌薬の最低薬物濃度のことである。また、バンコマイシンは腎排泄型薬物であり、バンコマイシンのクリアランスは腎機能などに影響を受けるが、最小発育阻止濃度(MIC)の影響は受けない。

3 正
本患者のクレアチニンクリアランス(Ccr)は50 mL/minであり、設問中のパラメータを用いて、クリアランスを算出する。

CL(L/hr)=0.05×Ccr(mL/min)[Ccrが85 mL/min以下の場合]
=0.05×50
=2.5(L/hr)

したがって、この患者の投与量決定には分布容積60.7 Lとクリアランス2.5 L/hを用いる。

4 正
ベイジアン法は、母集団パラメータと患者から得られた1点の血中濃度測定値などを用いることにより、その患者の薬物動態パラメータを推定することである。したがって、患者の1点の血中濃度測定値、患者情報、及び母集団パラメータとその変動要因を用いて、ベイジアン法により患者個々の薬物動態パラメータが推定できる。

5 誤
母集団パラメータを求めるためには、経時的な血中濃度変化を必要とするが、集団ごとに血液採取時間を一定にする必要はない。


問273 解答 1、4

1 正
バンコマイシンは、細菌細胞壁の前駆体のペンタペプチドC末端のD−Ala−D−Alaに結合して、細胞壁合成を抑制する。

2 誤
細菌リボソーム30Sサブユニットに結合して、タンパク質合成を抑制する薬剤として、テトラサイクリンなどがある。テトラサイクリンは、70Sリボソームの30Sサブユニットに結合することで、細菌のタンパク質合成を抑制する。

3 誤
翻訳過程の70S開始複合体の形成を阻害して、タンパク質合成を抑制する薬剤として、リネゾリドがある。リネゾリドは、細菌の翻訳開始反応におけるリボソーム50Sサブユニットに結合して、70S開始複合体の形成を阻害することで、タンパク質合成を抑制する。

4 正
バンコマイシンは、短時間での点滴静注を行うと、ヒスタミンの遊離を促進して、レッドネック症候群(顔、首などに紅斑性充血、痒み等の症状)を引き起こすため、60分以上かけて点滴する。

5 誤
非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)との併用により、痙れんを引き起こす薬剤としてニューキノロン系抗菌薬のレボフロキサシンなどがある。NSAIDsと併用すると、レボフロキサシンの抗GABA作用が増強し、レボフロキサシンによる中枢性痙れんがあらわれやすくなる。


問274 解答 1、5

1 正
バンコマイシンの投与直後に、アナフィラキシーショック(呼吸困難、全身紅潮、浮腫等)が発現した場合、投与を中止し、適切な処置を行う必要があるため、皮疹や呼吸困難の有無を確認することは適切である。

2 誤
バンコマイシン投与後の副作用に高血圧が発現しやすいとの報告はないので、朝晩の血圧を確認することは薬剤師が行うモニタリングとして、不適切である。

3 誤
バンコマイシンの副作用として聴力低下、難聴等の第8脳神経障害が発現することがあるので、聴力を確認することは適切であるが、視力障害が発現しやすいとの報告はないため、視力を確認することは、薬剤師が行うモニタリングとして、不適切である。

4 誤
バンコマイシンは、急性腎不全や間質性腎炎等の重篤な腎障害があらわれることがあるので、面談時に全身のむくみを確認することは適切であるが、低アルブミン血症の発現頻度が高いとの報告はないので、薬剤師が行うモニタリングとして、不適切である。

5 正
バンコマイシンは、急性腎不全や間質性腎炎等の重篤な腎障害が発現することがあるので、血清クレアチニン値や尿量を確認することは、適切である。


問275 解答 5

喀痰、血液培養、尿、鼻汁を用いたグラム染色の結果、血液サンプルの細菌培養でMRSA陽性であったことから、バイパス術の創傷からのMRSA感染による菌血症(血液中に病原体が存在すること)であると推測される。そのため、バンコマイシン点滴静注用が継続された。しかし、バンコマイシン投与10日目の白血球数が2,500 /µLと正常値:4,000〜10,000 /µLを下回っており、バンコマイシンの重大な副作用の汎血球減少が起きている可能性があるため、投与中止を考慮する必要がある。そのため、バンコマイシンによる血球減少を疑い投与中止を提案することは、病棟担当薬剤師対応として適切である。

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