令和03年度 第106回 薬剤師国家試験問題
一般 実践問題 - 問 272,273

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問 272  正答率 : 43.5%
問 273  正答率 : 59.6%

 国家試験問題

国家試験問題
62歳男性。15年前に糖尿病と診断され治療を続けてきたが、血糖値のコントロールは不十分で、下肢の潰瘍の治療目的で入院した。入院中に発熱と呼吸困難、咳を訴え、喀痰検査よりMRSA感染症と診断され、バンコマイシン塩酸塩による治療を実施することになった。

(身体所見及び検査値)
体重60 kg、身長170 cm、ALT 23 IU/L、AST 18 IU/L、eGFR 24 mL/min/1.73 m2、HbA1c 9.2%(NGSP値)

問272(薬剤)
この患者に対し、バンコマイシン塩酸塩を1日1回1 g、点滴静注することになった。初回投与開始後、3時間及び24時間(2回目の投与直前)に採血を行いバンコマイシンの血中濃度を測定したところ、それぞれ40 µg/mL及び16 µg/mLであった。次の採血ポイントとして、定常状態における最低血中濃度の90%以上に到達した最初のトラフ濃度を測定したい。この患者における消失半減期(h)と次の採血ポイントの組合せとして適切なのはどれか。1つ選べ。
ただし、バンコマイシンの体内動態は線形1−コンパートメントモデルに従うものとし、ln 2 = 0.693、ln 5 = 1.609とする。

スクリーンショット 2021-07-04 21.23.13.png


問273(実務)
この患者におけるバンコマイシンの治療薬物モニタリング(TDM)及び治療上の注意に関する記述として、適切なのはどれか。2つ選べ。

1 血糖値が高いとバンコマイシンの血中濃度が過小評価されるので、過量投与にならないよう注意する。
2 消失半減期が延長しているため、反復投与による血中濃度の上昇に注意する。
3 点滴終了から1〜2時間後にピーク濃度を測定し、最小発育阻止濃度以上の血中濃度であれば十分な治療効果が見込める。
4 1日1回1 gの投与を続けると、定常状態ではトラフ濃度が32 µg/mLを超えると見積もられる。
5 下肢潰瘍に対する抗真菌薬治療を行う場合、アムホテリシンBとの併用は腎障害の危険性が高まるため避けることが望ましい。

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問 272    
問 273    

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問272 解答 6

消失半減期(h)と次の採血ポイントを下記の方法を用いてそれぞれ求める。

<消失半減期t1/2(h)>
消失半減期t1/2は、①式より求めることができる。

スクリーンショット 2021-07-04 21.23.25.png

また、消失速度定数keは②式より求めることができる。

スクリーンショット 2021-07-04 21.23.33.png

②式を③式に変換する。

スクリーンショット 2021-07-04 21.23.39.png

設問文に「初回投与開始後、3時間及び24時間(2回目の投与直前)に採血を行いバンコマイシンの血中濃度を測定したところ、それぞれ40 µg/mL及び16 µg/mLであった。」となるため、投与開始3時間後の血中薬物濃度C3=40 µg/mL、投与開始24時間後の血中薬物濃度C24=16 µg/mL、C3からC24になるまでの経過時間t=21 hを③式に代入する。

スクリーンショット 2021-07-04 21.23.46.png

したがって、①式に代入し半減期t1/2を求める。

スクリーンショット 2021-07-04 21.23.53.png

<採血ポイント>
一般に、定常状態における最低血中濃度の90%以上に到達した最初のトラフ濃度は、消失半減期の4倍程度の時間が必要とされており、本患者の消失半減期は16時間であるため、採血ポイントは16時間×4=64時間が経過している4回目の投与直前(72時間後)が適切である。


問273 解答 2、5

1 誤
血糖値が高いとバンコマイシンの血中濃度が過小評価されるとの報告はない。

2 正
本患者のeGFRは、24 mL/min/1.73 m2であり正常値(≧90 mL/min/1.73 m2)に比べて腎機能が低下していることがわかる。したがって、腎排泄型のバンコマイシンの消失半減期が延長する可能性がある。したがって、反復投与による血中濃度の上昇に注意する。

3 誤
定常状態到達後のトラフ濃度を測定し、最小発育阻止濃度以上の血中濃度であれば十分な治療効果が見込める。

4 誤
設問文より「1日1回1 g、点滴静注」とあるため、投与間隔24時間であることがわかる。

<半減期t1/2と等しい投与間隔で薬物を繰り返し投与した場合>
半減期t1/2と等しい投与間隔で薬物を繰り返し投与した場合の定常状態時のトラフ値は、投与2回目直前の血中濃度の約2倍となる。

<半減期t1/2より長い投与間隔で薬物を繰り返し投与した場合>
半減期t1/2より長い投与間隔で薬物を繰り返し投与した場合の定常状態時のトラフ値は、投与2回目直前の血中濃度の約2倍を超えることはない。
したがって、本問において投与間隔24時間であり、半減期t1/2は16時間であるため、半減期t1/2より長い投与間隔で薬物を繰り返し投与した場合の定常状態時のトラフ値は、投与2回目直前の血中濃度の約2倍を超えることはない。。本患者の2回目の投与直前の血中薬物濃度は16 µg/mLであり、定常状態時のトラフ値は32 µg/mLを超えることはない。

5 正
アムホテリシンBとバンコマイシンはいずれも腎毒性を持つ薬剤であるため、併用は腎障害の危険性が高まるため避けることが望ましい。

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