薬剤師国家試験 平成27年度 第100回 - 一般 実践問題 - 問 270,271
腎移植を受けた患者が退院間近になり、病棟担当薬剤師が退院時服薬指導のために病室を訪問した。
患者から、「移植コーディネーターから、退院後の食生活で特にセントジョーンズワートや柑橘類、生魚などの摂取は控えるように言われているのですが、どのような理由なのでしょうか」との質問があった。なお、当該患者にはシクロスポリンが処方されている。
問270(実務)
上記の質問に対する薬剤師の回答として適切なのはどれか。2つ選べ。
1 セントジョーンズワートは、免疫抑制薬の働きを弱める恐れがあるからです。
2 セントジョーンズワートは、免疫抑制薬の血中濃度を高める恐れがあるからです。
3 柑橘類の中には免疫抑制薬の働きを弱めてしまうものがあるからです。
4 生魚の成分には免疫抑制薬の働きを強めてしまうものがあるからです。
5 生魚に付着している微生物によって食中毒を起こす恐れがあるからです。
問271(薬剤)
シクロスポリンの経口投与時の体内動態および投与設計に関する記述のうち、正しいのはどれか。2つ選べ。
1 シクロスポリンの投与量は、腎移植後の日数に関わらず一定に保つことが推奨される。
2 シクロスポリンの投与設計は、一般にトラフ濃度に基づいて行われる。
3 シクロスポリンによる腎移植後の拒絶反応のコントロールが不良の場合は、シクロスポリンとタクロリムスの併用を行う。
4 血清クレアチニン値の上昇が観察された場合は、シクロスポリンによる副作用の可能性があるため、直ちに休薬する必要がある。
5 自己乳化型マイクロエマルション製剤投与後のシクロスポリンの消化管吸収は、胆汁分泌量や食事の影響を受けにくい。
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問270 解答 1、5
1 正
セントジョーンズワートは、シトクロムP450(CYP3A4)誘導作用を有するため、免疫抑制薬であるシクロスポリンの代謝を促進し、血中濃度を低下させる恐れがある。よって、「セントジョーンズワートは、免疫抑制薬の働きを弱める恐れがあるからです。」と回答することは適切である。
2 誤
解説1参照
3 誤
柑橘類の中(グレープフルーツなど)には、小腸の代謝酵素を阻害し、免疫抑制薬であるシクロスポリンの小腸での代謝を阻害するものが存在する。
よって、「柑橘類の中には、免疫抑制薬の働きを強めてしまうものがあるからです」と回答する必要がある。
4 誤
生魚の成分には、免疫抑制薬の働きを強めてしまうものは含まれていない。
5 正
免疫抑制薬であるシクロスポリンを投与中は、免疫力が低下しているため、生魚に付着している微生物によって食中毒を起こす恐れがある。よって、「生魚に付着している微生物によって食中毒を起こす恐れがあるからです。」と回答することは適切である。
問271 解答 2、5
1 誤
シクロスポリンの腎移植時の用法・用量は、通常、移植1日前から1日量9〜12 mg/kgを1日2回に分けて経口投与し、以後1日2 mg/kgずつ減量する。維持量は1日量4〜6 mg/kgを標準とするが、症状により適宜増減する。
2 正
血中濃度の高い場合の副作用並びに血中濃度の低い場合の拒絶反応の発現等を防ぐため、患者の状況に応じて血中濃度を測定し、トラフ値を参考にして投与量を調節する必要がある。
3 誤
シクロスポリンとタクロリムス(外用剤を除く)を併用すると、シクロスポリンの血中濃度が上昇することや腎障害等の副作用があらわれやすくなるため、両者は併用禁忌とされている。
4 誤
腎移植後に血清クレアチニン値の上昇が観察された場合は、シクロスポリンによる副作用の可能性以外に、シクロスポリンの効果不十分による拒絶反応が発現している可能性も考えられる。
そのため、患者の状態を十分に観察し、シクロスポリンの副作用の可能性が考えられる場合には、シクロスポリンの減量、休薬を行い、シクロスポリンの効果不十分による拒絶反応が発現している可能性が考えられる場合には、シクロスポリンの増量又は他剤への変更を行う必要がある。
5 正
シクロスポリンの自己乳化型マイクロエマルション製剤(商品名:ネオーラル)は、乳化するために胆汁酸を必要としないため、本剤投与後のシクロスポリンの消化管吸収は、胆汁分泌量や食事の影響を受けにくい。
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