薬剤師国家試験 平成29年度 第102回 - 一般 理論問題 - 問 149
下図は、ある疾患に対して使用可能な2つの薬剤による治療の費用対効果を比較するために作成した決定樹(判断樹)モデルである。治療プログラム(薬物治療)の経済評価において、このようなモデルを用いた分析の特徴として正しいのはどれか。2つ選べ。
1 目的や状況に応じて条件設定ができる。
2 臨床研究と一体化してデータを収集する。
3 モデルの構築やデータ収集においてバイアスは発生しない。
4 仮定に基づくシミュレーションを行う。
5 臨床試験と同程度の時間と費用を要する。
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解答 1、4
薬物治療の経済評価とは、薬剤経済学において、薬物治療を実施した後の医療に及ぼした影響と、使用された費用とを比較・分析することであり、これにより費用に対してどの程度の臨床効果があるかを経済的効率から評価できる。
本問では、薬物治療を実施した後の医療に及ぼした影響としてQALY(質調整生存年)を用いる費用効用分析が行われている。この際に用いられるQALYとは、QOL(生活の質)を健康な状態を1、死亡を0とした1〜0を効用値としてスコア化し、これに生存年数を乗じることにより求める指標である。
薬物治療(治療プログラム)の経済評価を行う際、実際に臨床試験を行ってかかる費用と治療効果を評価する前向き研究もあるが、この研究では長期間の分析と多くの費用が必要となるデメリットがある。
そのため、本問のように過去の文献を基に、目的や状況に応じた条件設定の分析モデル(決定樹など)を構築する方法があり、この方法では分析時間の短縮化と費用の軽減が期待できる。分析モデルを構築した後、そのモデルに基づくシミュレーションを行う後ろ向き研究により経済評価を行うことができる。
本問では、薬物Aと薬物Bを治療に用いたそれぞれの場合について、起こりうる薬物治療後の状態を確率的に評価し、治療経過を表す分析モデルを構築することで効果(QALY)と費用を分析する。
なお、分析モデルには、本問で用いられた決定樹(判断樹)モデルとマルコフモデルがあり、決定樹(判断樹)モデルでは□は分岐点と呼ばれ、意思決定者が薬物Aを使うか薬物Bを使うかを決定する点を示し、○は確率分岐点と呼ばれ、有効や無効を評価する点を示している。これにより、薬物治療を行った際、確率的に期待できる効果や費用を推計することができる。
また、マルコフモデルは、複数の観察期間での状態をいくつかのステージに分類し、一定期間にそのステージをどのように進んでいくかのシミュレーションをすることで、薬物投与における長期疾患の予後を考えることなどができる。一般的には、急性疾患の分析では決定樹(判断樹)モデルが、慢性疾患の分析ではマルコフモデルが用いられることが多い。
1 正
前記参照
2 誤:モデル構築は、過去の文献などを基に治療の流れの決定や起こりうる薬物治療後の状態を確率的に評価する目的で行うものであるため、臨床研究と一体化してデータを収集する必要はない。
3 誤
モデル構築やデータ収集では患者背景が異なることによりバイアス(偏りやズレ)が発生することがある。そのため、研究計画などデータ収集の前段階の時点で、バイアスの制御を考慮する必要がある。
4 正
前記参照
5 誤
前記参照
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