薬剤師国家試験 平成31年度 第104回 - 一般 理論問題 - 問 115
遺伝子Xの転写は薬物ア及びイにより促進される。両薬物による遺伝子Xの転写促進に関わるプロモーター領域中のDNA部位を同定するために、レポーター遺伝子を用いたプロモーター解析実験を行なった。以下の実験方法の概要を記す。
実験方法の概要
図1に示したように、遺伝子Xの転写開始点から200 bp上流(−200 bp)までのDNAを合成し、それをレポーター遺伝子に連結して発現ベクターを作製した(A)。また、Aより上流域が短い4種類のDNAを合成して、同様にベクターを作製した(B〜E)。次に、A〜Eの組換えDNAを導入した哺乳動物由来細胞を作製した。これらの細胞において薬物ア又はイで処理した際のレポーター遺伝子産物を測定し、図2の結果を得た。レポーター遺伝子のみを持つベクターを導入した細胞では、薬物処理の有無に関わらずレポーター遺伝子産物は発現されなかった。なお、細胞へのDNA導入効率は等しく、細胞培養条件やレポーター遺伝子産物などが転写活性に影響を及ぼさないことを確認している。
哺乳動物由来細胞における転写調節とプロモーター解析実験の方法及び考察に関する記述のうち、誤っているのはどれか。1つ選べ。
1 RNAポリメラーゼは、転写因子を介してプロモーターに結合する。
2 レポーター遺伝子として、ホタル由来のルシフェラーゼ遺伝子が用いられることがある。
3 転写開始点から80 bp上流〜40 bp上流のDNA配列は、薬物アによるレポーター遺伝子産物の発現増加に関与していると考察される。
4 転写開始点から120 bp上流〜80 bp上流のDNA配列は、薬物イによるレポーター遺伝子産物の発現増加に関与していると考察される。
5 転写開始点から40 bp上流までのDNA配列は、薬物ア及びイのいずれにも依存しない恒常的なレポーター遺伝子産物の発現に関与していると考察される。
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解答 4
レポーターアッセイとは、レポーター遺伝子を用いてプロモーターなどの転写調節に関する配列の機能を調べる方法である。ある遺伝子のプロモーターの機能を調べる場合、その遺伝子の代わりにレポーター遺伝子を連結させ、レポーター遺伝子を連結させ、レポーター遺伝子産物の発現量を測定することでプロモーターの転写調節能を調べることができる。
本実験では図1のA〜Eのように遺伝子Xのプロモーター領域を短くし、転写促進に関与する薬物ア及びイがプロモーター領域(DNA)のどの領域に作用するかを同定している。
1 正しい
哺乳動物由来細胞などの真核細胞では、プロモーター領域へのRNAポリメラーゼの結合に 転写因子が必要である。なお、原核細胞では転写因子を必要としない。
2 正しい
レポーター遺伝子としてホタル由来のルシフェラーゼ遺伝子やオワンクラゲ由来の緑色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子などが用いられる。ホタル由来のルシフェラーゼ遺伝子は発現することで、ルシフェラーゼによりルシフェリンが分解されて蛍光を発する。その蛍光強度を測定することで、ルシフェラーゼ遺伝子産物の発現量を確認できる。
3 正しい
薬物アによるレポーター遺伝子産物の発現について考察する際には、図2の灰色のグラフを確認する必要がある。80 bp上流〜40 bp上流を含むDと80 bp上流〜40 bp上流を含まないEにおける図2の灰色のグラフを比較するとDの方がレポーター遺伝子の発現量が多い。また、200 bp〜40 bp上流のA〜Dではレポーター遺伝子の発現量に大きな差が見られない。したがって、転写開始点から80~40 bp上流のDNA配列に薬物アが作用することがわかり、未処理よりも薬物アで処理した方が発現量の増加がみられるため、転写開始点から80~40 bp上流のDNA配列に薬物アが作用してレポーター遺伝子の発現増加に関与する領域(エンハンサー)が存在していると考えられる。
4 誤っている
薬物イによるレポーター遺伝子産物の発現について考察する際には、図2の黒色のグラフを確認する必要がある。200~120 bp上流を含むA、Bと200~120 bp上流を含まないC~Eにおける図2の黒色のグラフを比較するとA、Bでは発現量が多く、C~Eでは発現量が未処理と変わらない。したがって、転写開始点から200~120 bp上流のDNA配列に薬物イが作用することがわかり、未処理よりも薬物イで処理した方が発現量の増加がみられるため、転写開始点から200~120 bp上流のDNA配列に薬物イが作用してレポーター遺伝子の発現増加に関与する領域(エンハンサー)が存在していると考えられる。そのため、薬物イは転写開始点から120~80 bp上流のDNA配列に作用しないと考えられる。
5 正しい
図2のグラフより転写開始点から40 bp上流までのDNAを含むEでは、薬物ア及びイでの処理と未処理ではレポーター遺伝子産物の相対的発現量がほぼ等しい。また、問題文より、「レポーター遺伝子のみを持つベクターを導入した細胞では、レポーター遺伝子産物は発現されなかった。」とある。したがって、転写開始点から40 bp上流までのDNA配列は薬物アや薬物イのいずれにも依存せず、レポーター遺伝子の転写促進に関与する領域であると考えられる。
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解説動画1 ( 17:54 )
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