薬剤師国家試験 平成31年度 第104回 - 一般 実践問題 - 問 252,253
79歳女性。この3年間、心不全(NYHAⅢ度)に対して同一の薬剤で薬物治療を行ってきた。この度、体動時の息切れがひどくなり、精査加療のために入院となった。検査の結果、体液貯留と浮腫の増悪が認められた。カンファレンスで薬物治療が再検討され、新たに1つの薬剤が追加となった。検討後の処方内容は以下のとおりである。
問252(実務)
追加された薬剤の投与開始日から、頻回に測定する必要性が最も高い検査値はどれか。1つ選べ。
1 血清ナトリウム濃度
2 血清カリウム濃度
3 血清クレアチニン値
4 血清アルブミン値
5 PT−INR値
問253(薬理)
この患者の背景から新たに追加された薬物の作用機序を踏まえ、前問の検査値を測定する理由として適切なのはどれか。1つ選べ。
1 バソプレシンV2受容体を遮断することで、電解質の排泄を伴わない利尿効果が現れ、高ナトリウム血症を引き起こす可能性がある。
2 アルドステロン受容体を遮断することで、K+の排泄が抑制され、高カリウム血症を引き起こす可能性がある。
3 アンジオテンシンⅡAT1受容体を遮断することで、血清クレアチニン値の上昇を特徴とする腎機能障害を引き起こす可能性がある。
4 ヘンレ係蹄上行脚のNa+/K+/2Cl-共輸送系を阻害することで、血清アルブミン値の低下を特徴とするネフローゼ症候群を引き起こす可能性がある。
5 ビタミンKの作用に拮抗することで、プロトロンビン時間が延長し、出血のリスクが高まる可能性がある。
- REC講師による詳細解説! 解説を表示
-
問252 解答 1
本症例において追加された薬剤は、トルバプタン錠であると考えられる。その根拠は以下の通りである。
・体液貯留と浮腫の増悪を改善する目的で薬剤が追加となっていることから、利尿薬が追加されていると考えられるため。
・利尿薬のうちトルバプタンは、ループ利尿薬等の他の利尿薬で効果不十分な心不全における体液貯留に用いられるため、本症例のような状況で追加投与される薬剤であるため。
トルバプタンは、バソプレシンV2受容体を遮断することで、ナトリウムなどの電解質の排泄を伴わない利尿効果を示すため、重大な副作用として高ナトリウム血症を引き起こす可能性がある。トルバプタン投与開始後24時間以内に水利尿効果が強く発現するため、少なくとも投与開始4〜6時間後並びに8〜12時間後に血清ナトリウム濃度を測定することとされており、投与開始翌日から1週間程度は毎日測定し、その後も投与を継続する場合には適宜測定することとされている。
問253 解答 1
1 正
トルバプタンに関する記述である。トルバプタンは、バソプレシンV2受容体を遮断することで、腎集合管において水の再吸収を抑制し利尿作用を示す。その際、集合管における水の再吸収に選択的に作用するため、電解質の排泄を伴わない利尿効果が現れ、副作用として高ナトリウム血症を引き起こす可能性がある。
2 誤
スピロノラクトンに関する記述である。スピロノラクトンは、アルドステロン受容体を遮断することで、遠位尿細管から集合管においてNa+-K+交換系を抑制し利尿作用を示す。その際、K+の排泄が抑制され、副作用として高カリウム血症を引き起こす可能性がある。
3 誤
ロサルタンに関する記述である。ロサルタンは、アンギオテンシンⅡAT1受容体遮断薬(ARB)であり、アンギオテンシンⅡAT1受容体を遮断して血管拡張作用及びアルドステロン分泌抑制作用を示す。ただし、2型糖尿病における糖尿病性腎症の患者では、血清カリウム値の上昇及び血清クレアチニン値上昇が現れやすいため、適切な検査を行うなど観察を十分に行う必要がある。
4 誤
ヘンレ係蹄上行脚のNa+/K+/2Cl-共輸送系を阻害するのは、フロセミドである。なお、フロセミドは、浮腫を合併したネフローゼ症候群に対して使用が推奨されている。
5 誤
ワルファリンに関する記述である。ワルファリンは、肝臓においてビタミンKと拮抗し、プロトロンビンなどの血液凝固因子の生合成を抑制することで抗凝固作用を示すが、副作用として出血のリスクが高まる可能性がある。
-
解説動画1 ( 06:47 )
-
※ この解説動画は 60 秒まで再生可能です
再生速度
|
|
- この過去問解説ページの評価をお願いします!
-
評価を投稿