薬剤師国家試験 平成31年度 第104回 - 一般 実践問題 - 問 254,255
38歳女性。乳がん検診で腫瘤を指摘され、精査のため来院した。右乳房外側の腫瘤の針生検の結果、ER(2+)、PgR(+)、HER2(1+)、Ki−67 11%であり、pT1bの乳がんと診断された。腫瘤径は1 cmだったため、乳房温存術(リンパ節郭清なし)が実施された。患者は閉経前であることが確認されている。
問254(実務)
この患者の術後治療に使用される抗がん薬として適切なのはどれか。1つ選べ。
1 タモキシフェンクエン酸塩
2 フルベストラント
3 アナストロゾール
4 トラスツズマブ
5 ドセタキセル水和物
問255(薬理)
前問で適切と考えられた術後治療に使用される薬物の作用機序に関する記述のうち、正しいのはどれか。1つ選べ。
1 HER 2(ヒト上皮増殖因子受容体2型)に特異的に結合し、HER2シグナル伝達阻害作用と抗体依存性細胞障害作用を示す。
2 アロマターゼを阻害することで、アンドロゲンからエストロゲンの生成を阻害する。
3 微小管と結合し、安定化させることで脱重合を阻害する。
4 子宮内膜のエストロゲン受容体に対して刺激作用を示し、乳腺のエストロゲン受容体においてエストロゲンに対して拮抗作用を示す。
5 GnRH(性腺刺激ホルモン放出ホルモン)受容体に対して刺激作用を示す。
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問254 解答 1
乳がんは遺伝子レベルで多様な疾患であり、ホルモン受容体やHER2の発現の有無などによって効果的な治療法が異なる。そのため、下表の臨床病理学的サブタイプ分類に基づき、適切な治療法が選択される。
なお、HER2の判定では、一般的に免疫組織化学的(IHC)法が用いられており、スコア0〜1+は陰性、スコア2+は再検査、スコア3+が陽性と判定されるため、本症例のHER2(1+)は陰性と判定する。
本症例では、ER陽性、PgR陽性、HER2陰性、Ki−67低値であり、Luminal Aの乳がんであると考えられるため、ホルモン療法が推奨される。
本選択肢のうち、ホルモン療法で用いられる薬物は、タモキシフェンクエン酸塩、フルベストラント、アナストロゾールであるが、閉経前乳がんであることからアナストロゾールは不適切であり、フルベストラントを閉経前乳がんに用いる場合は、LH−RHアゴニスト投与下でCDK4/6阻害剤と併用する必要があるため、この患者の術後治療に使用される抗がん薬は、タモキシフェンクエン酸塩であると判断できる。
問255 解答 4
1 誤
トラスツズマブなどの作用機序である。トラスツズマブは、HER2(ヒト上皮増殖因子受容体2型)に対するモノクローナル抗体であり、抗体依存性細胞障害作用によりHER2を有する細胞を選択的に障害する分子標的薬である。HER2過剰発現が確認された乳がんや治癒切除不能な進行・再発の胃がんの治療に用いられる。
2 誤
アナストロゾールなどの作用機序である。アナストロゾールは、アロマターゼ阻害薬であり、アンドロゲンからエストロゲンの産生を抑制するため、閉経後乳がんに用いられる。
3 誤
ドセタキセル水和物などの作用機序である。ドセタキセルは、微小管と結合し、安定化させることで脱重合を阻害し、がん細胞の細胞分裂を抑制する。
4 正
タモキシフェンの作用機序である。タモキシフェンは、乳がん組織のエストロゲン受容体においてエストロゲンに対して拮抗作用を示し、乳がん細胞の増殖を阻害する。ただし、子宮内膜のエストロゲン受容体に対しては刺激作用を示すため、副作用として子宮体がんや子宮内膜症などがみられることがある。
5 誤
リュープロレリンなどLH−RH(黄体形成ホルモン放出ホルモン)アゴニストの作用機序である。リュープロレリンは、LH-RHの誘導体であり、放出制御型製剤としてLH-RH受容体を持続的に刺激することで、受容体の脱感作を誘発し、下垂体からの性腺刺激ホルモンの分泌低下に伴い、卵巣におけるエストラジオール産生能を低下させるため、子宮内膜症、子宮筋腫、閉経前乳癌などに用いられる。
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