薬剤師国家試験 平成31年度 第104回 - 一般 実践問題 - 問 260,261,262,263
58歳男性。高血圧症と脂質異常症の既往歴がある。1年前に頸動脈狭窄症を発症し、ステント留置術が施行された。今回、狭窄の状態を精査するために検査入院となった。病棟担当薬剤師が、患者に対して初回面談を行ったところ、「再発が怖いので、お医者さんから出された薬は毎日欠かさず飲んでいます。ただ、3日前からみぞおち付近に軽い痛みを感じて、便も黒い色をしています。」との情報を得た。病棟担当薬剤師は、この状況を主治医に報告し、薬物を1種類追加することを提案した。

問260(実務)
提案すべき薬物として最も適切なのはどれか。1つ選べ。
1 ラベプラゾールナトリウム
2 チクロピジン塩酸塩
3 タンニン酸アルブミン
4 ロキソプロフェンナトリウム水和物
5 メピバカイン塩酸塩
問261(薬理)
前問で提案された薬物の作用機序はどれか。1つ選べ。
1 副交感神経節後線維の神経終末からのアセチルコリン遊離を抑制することで、胃の蠕動運動を抑える。
2 ADP受容体遮断により血小板凝集を促進することで、出血を抑える。
3 シクロオキシゲナーゼ阻害により炎症反応を抑制することで、痛みを抑える。
4 H+,K+-ATPase阻害により胃酸分泌を抑制することで、消化性潰瘍の増悪を抑える。
5 Na+チャネル阻害により知覚神経伝達を抑制することで、痛みを抑える。
問262(実務)
半年経過後、胃部不快感、嘔気を自覚するようになった。半年間、薬の服用に変更はない。胃の内視鏡検査を施行したところ、早期胃がんが発見されたため、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)を実施することになった。ESDは大出血のリスクは小さいが、出血の頻度が高い処置である。主治医は患者の既往歴を考慮し、抗血栓薬は継続したいと考えている。そこで、周術期の抗血栓療法について薬剤師に相談があった。この患者の抗血栓薬の中止・継続・代替療法について適切なのはどれか。1つ選べ。ただし、ESD当日は休薬することとする。
1 クロピドグレル錠とアスピリン腸溶錠はESD前日まで継続する。
2 クロピドグレル錠は7日前から休薬し、アスピリン腸溶錠は継続する。
3 アスピリン腸溶錠を7日前からダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩カプセルに変更する。
4 クロピドグレル錠を7日前からシロスタゾール錠に変更する。
5 クロピドグレル錠とアスピリン腸溶錠を14日前からヘパリンナトリウム持続点滴に変更する。
問263(薬理)
前問の選択肢1〜5に挙げた薬物の作用機序に関する記述のうち、正しいのはどれか。2つ選べ。
1 クロピドグレルの活性代謝物は、ADP P2Y12受容体を不可逆的に遮断する。
2 シロスタゾールは、ホスホジエステラーゼVを選択的に阻害する。
3 低用量のアスピリンは、血管内皮細胞のシクロオキシゲナーゼ-2(COX-2)を阻害しにくいため、プロスタグランジンI2(PGI2)の産生は抑制されない。
4 ヘパリンは、内因性のトロンボモジュリンによる血液凝固因子の不活性化作用を促進する。
5 ダビガトランは、第Xa因子に結合してその活性を阻害することで、プロトロンビンからトロンビンへの変換を抑制する。
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問260 解答 1
本患者の持参薬の内容と訴えから、クロピドグレル錠及びアスピリン腸溶錠服用時に副作用としてみられる消化性潰瘍を発症している可能性が高いと考えられる。
1 正
ラベプラゾールナトリウムは、プロトンポンプ阻害薬であり、胃壁細胞からの胃酸分泌を抑制する。低用量アスピリン投与時における消化性潰瘍の再発抑制に適応があるため、提案すべき薬物として最も適切である。
2 誤
チクロピジン塩酸塩は、消化性潰瘍など出血している患者への投与は禁忌である。そのため、提案すべき薬物としては不適切である。
3 誤
タンニン酸アルブミンは、下痢症に用いられるが本患者の症状改善には効果が期待できない。そのため、提案すべき薬物としては不適切である。
4 誤
ロキソプロフェンナトリウム水和物は、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)であり、副作用として胃腸障害を引き起こす恐れがあるため、消化性潰瘍患者への投与は禁忌である。そのため、提案すべき薬物としては不適切である。
5 誤
メピバカイン塩酸塩は、局所麻酔薬であり硬膜外麻酔、伝達麻酔、浸潤麻酔に用いられるが、消化性潰瘍時の鎮痛には用いられない。そのため、提案すべき薬物としては不適切である。
問261 解答 4
ラベプラゾールはプロトンポンプ阻害薬であり、胃壁細胞上のプロトンポンプ(H+,K+-ATPase)を阻害することにより胃酸分泌を抑制し、消化性潰瘍の増悪を抑える。
問262 解答 2
本症例(出血頻度が高い出血高危険度の内視鏡的粘膜下層剥離術)における抗血栓薬の休薬については、「抗血栓薬服用者に対する消化器内視鏡診療ガイドライン」(2012年)において以下のように定められている。
「出血高危険度の消化器内視鏡において、アスピリンとアスピリン以外の抗血小板薬併用の場合には、 抗血小板薬の休薬が可能となるまで内視鏡の延期が好ましい。内視鏡の延期が困難な場合には、アスピリンまたはシロスタゾールの単独投与とする。休薬期間はチエノピリジン誘導体が5〜7日間、チエノピリジン誘導体以外の抗血小板薬が1日間を原則とし、個々の状態に応じて適時変更する。」
ガイドラインに基づくと、選択肢の中では、チエノピリジン誘導体であるクロピドグレル錠を7日前から休薬し、アスピリン腸溶錠を単独投与で継続することが適切であると考えられる。
問263 解答 1、3
1 正
クロピドグレルは、肝臓で活性代謝物に変換され、血小板膜に存在するADP受容体であるP2Y12受容体を不可逆的に遮断することで、血小板凝集を抑制する。
2 誤
シロスタゾールは、ホスホジエステラーゼ(PDE)Ⅲを選択的に阻害し、血小板内サイクリックAMP(cAMP)量を増加させることで、血小板凝集を抑制する。
3 正
アスピリンを低用量で用いた場合、血小板のシクロオキシゲナーゼ(COX)が不可逆的に阻害され、血小板のトロンボキサンA2生成がより強く阻害され、血小板凝集抑制作用が現れる。この際、血管内皮細胞のCOX−2は阻害しにくいため、プロスタグランジンI2(PGI2)の産生は抑制されない。
なお、アスピリンを高用量で用いた場合、血小板のCOXに加え、血管内皮細胞のCOXも阻害され、血管内皮細胞のPGI2生成も阻害されるため、血小板凝集抑制作用が低下することがある。
4 誤
ヘパリンは、アンチトロンビンⅢ(ATⅢ)と結合することで、ATⅢによるセリンプロテアーゼ(トロンビンや第Ⅹa因子など)の不活性化作用を促進し、血液凝固を抑制する。
5 誤
ダビガトランは、ATⅢ非依存的に直接トロンビンを阻害することで、フィブリノーゲンからフィブリンへの変換を抑制し、血液凝固を抑制する。なお、設問の作用機序に該当する薬物には、リバーロキサバンやエドキサバンなどがある。
解説動画1 ( 05:27 ) | 解説動画2 ( 13:34 )
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