薬剤師国家試験 平成31年度 第104回 - 一般 実践問題 - 問 296,297
66歳女性。忙しい夫の会社を手伝っている。遠方に住む共働きの息子夫婦に半年ほど前に子供ができ、世話を頼まれたので、忙しい中、自宅と息子夫婦の家の行き来を繰り返している。2〜3週間前より、気分が優れず、食欲がなくなり、眠りにつくにも時間がかかるようになった。女性は、理由はわからないが「きっと私のせいで夫の会社が倒産する」と思うようになった。心配した夫と一緒に精神科を受診し、うつ病と診断された。
以下の処方せんを持ってこの患者が来局した。
問296 (病態・薬物治療)
この患者の病態、症状及び検査に関する記述のうち、正しいのはどれか。2つ選べ。
1 Self−rating Depression Scale(SDS)は診断に有用な評価スケールである。
2 被害妄想状態が認められる。
3 誇大妄想や精神運動抑止が認められる。
4 食欲不振は身体症状である。
5 睡眠障害は中途覚醒である。
問297(実務)
薬剤師がこの患者に対して行う説明として、適切なのはどれか。2つ選べ。
1 胃腸症状が出現したら休薬してください。
2 処方1は、処方2の副作用を軽くするための薬剤です。
3 睡眠途中で目覚めた時の出来事を覚えていないことがあります。
4 口が乾くことがあります。
5 処方2と処方3の薬剤は長期間服用する必要があります。
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問296 解答 1、4
1 正
Self−rating Depression Scale(SDS)は、うつ評価を主観的に行ってもらう自己評価尺度であり、診断に有用な評価スケールである。なお、SDSを基に作られたCES−D(The Center for Epidemiologic Studies Depression Scale)もうつ病の自己評価尺度として使用される。
2 誤
うつ病では、「心気妄想」「貧困妄想」「罪業妄想」の三大微小妄想が特徴的である。本患者の「理由はわからないがきっと私のせいで夫の会社が倒産する」との主訴から、このうちの罪業妄想状態であると考えられる。なお、被害妄想とは、被害の証拠がないのに自分に被害もしくは危害が及ぼされると確信する妄想で、統合失調症に特徴的な妄想である。
3 誤
誇大妄想とは、肥大した自己評価を行う、躁病に特徴的な妄想である。また、精神運動抑止は、思考が停止する、無口になるなどの症状を呈する状態である。本症例の記述より、誇大妄想や精神運動抑止は認められていない。
4 正
うつ病は精神症状のみならず身体症状を伴うことが多く、代表的な身体症状として食欲不振、睡眠障害、頭痛、背部痛、性欲の減退などがある。
5 誤
「眠りにつくにも時間がかかるようになった」との主訴から、本患者の睡眠障害は中途覚醒ではなく入眠障害であると考えられる。
問297 解答 3、4
1 誤
処方された薬剤のうち、セルトラリンなどの選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)は、投与初期に胃腸症状(嘔気・嘔吐など)が現れることがある。ただし、胃腸症状が現れたからといって勝手に休薬せず、必ず医師または薬剤師に連絡するよう説明する。
2 誤
処方1のセルトラリンはSSRIであり、うつ状態の改善のために処方されている。また、処方2のエチゾラムはベンゾジアゼピン系抗不安薬であり、うつ状態に伴う不安などの軽減のために処方されている。よって、処方1は処方2の副作用を軽くするための薬剤ではない。
3 正
処方された薬剤のうち、処方3のエスゾピクロンなどの短時間型の催眠薬は、副作用として一過性前向性健忘(中途覚醒時の出来事をおぼえていないなど)を起こすことがあるため、少量から開始するなど、慎重に投与する必要がある。
4 正
エチゾラムやエスゾピクロンには弱い抗コリン作用があり、口渇、便秘などを認めることがあるため注意が必要である。
5 誤
処方2のエチゾラムや処方3のエスゾピクロンは連用により薬物依存を生じることがあるため、漫然とした長期使用をしないよう注意が必要である。
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