薬剤師国家試験 令和02年度 第105回 - 一般 理論問題 - 問 163,164
58歳男性。5年前より健康診断にて高血圧症を指摘されていたが放置していた。1年前には心肥大も指摘され、その頃から労作時に呼吸が苦しくなるようになった。ある日、発作性夜間呼吸困難のため、緊急入院した。入院時に浮腫が認められ、胸部レントゲンで、心肥大の増悪と肺うっ血像が認められた。 問163(病態) この患者に関する記述のうち、正しいのはどれか。2つ 選べ。1 浮腫は気管支喘息に特有の症状である。 2 脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)が増加している。 3 重症度分類にはNYHA分類やAHA/ACC分類が有用である。 4 心電図においてST上昇が認められる。 5 心胸郭比は35%以下である。 問164(薬理) この患者に対して、症状の改善や心臓への負荷を軽減するため、作用機序の異なる2つの薬物が治療薬の候補となった。それぞれの主な作用点と作用、主な細胞内の反応、前負荷及び後負荷に及ぼす影響の組合せのうち、正しいのはどれか。2つ 選べ。
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問163 解答 2、3 患者背景より、本患者は高血圧を基礎疾患として慢性心不全に至ったものと考えられる。そして、発作性夜間呼吸困難や浮腫、心肥大の増悪と肺うっ血像の検査所見から、慢性心不全の急性増悪の発症が疑われる。 1 誤 気管支喘息では、発作性夜間呼吸困難を認めることはあるが、浮腫を認めることはほとんどない。本症例で認められた入院時の浮腫は、慢性心不全の急性増悪によるものだと考えられる。なお、心不全に伴う浮腫は、体静脈うっ血による静脈圧の上昇に伴い血漿が組織間質に押し出されることで生じる。 2 正 脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)は、主に心室から分泌され、利尿作用や血管拡張作用を示し、心負荷に対する保護因子として働く。心負荷の増大によって分泌量が増加するため、心不全の病態を反映する心不全マーカーとして利用される。 3 正 慢性心不全の重症度分類には、自覚症状の程度により分類するNYHA(New York Heart Association)分類や心不全をステージ分類したAHA/ACC(American Heart Association/American College of Cardiology)分類が有用である。 4 誤 心電図においてST上昇が認められるのは異型狭心症や急性心筋梗塞である。一般的に慢性心不全でST上昇が認められることはない。 5 誤 心胸郭比とは、胸郭横径と心臓横径の比のことで、一般に成人男性では50%以下を示す。胸部X線検査にて、心拡大の程度を推定する指標として用いられ、本患者のように心肥大があれば心胸郭比は50%以上になると考えられる。 問164 解答 2、5 1 誤 Na+ ,K+ -ATPaseを阻害する薬物は、ジゴキシンなどのジギタリス製剤である。ジギタリス製剤は心筋細胞膜のNa+ ,K+ -ATPaseを直接阻害し、細胞内のNa+ の濃度を上昇させる。その結果、間接的にNa+ -Ca2+ 交換体が抑制され、Ca2+ の細胞外流出が抑制されることで、細胞内Ca2+ 濃度が上昇し、心収縮力増大作用を示す。なお、心収縮力増大作用に基づき、間接的に利尿作用が現れるため、主に前負荷を軽減させる。 2 正 心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)受容体を刺激する薬物は、カルペリチドである。カルペリチドは、ANP製剤であり、血管平滑筋細胞に存在するグアニル酸シクラーゼ内蔵型受容体であるANP受容体を刺激し、細胞内サイクリックGMP(cGMP)濃度を上昇させることで血管拡張作用及び利尿作用を示すため、前負荷及び後負荷を共に軽減させる。 3 誤 アデニル酸シクラーゼを直接活性化する薬物は、コルホルシンダロパートである。コルホルシンダロパートは、アデニル酸シクラーゼを直接活性化することにより、細胞内サイクリックAMP(cAMP)濃度を上昇させることで心収縮力増大による間接的利尿作用及び血管拡張作用を示すため、前負荷及び後負荷を共に軽減させる。 4 誤 ホスホジエステラーゼⅢを阻害する薬物には、ミルリノンやピモベンダンなどがある。これらの薬物は、ホスホジエステラーゼⅢを阻害することにより、細胞内cAMP濃度を上昇させることで心収縮力増大による間接的利尿作用及び血管拡張作用を示すため、前負荷及び後負荷を共に軽減させる。 5 正 可溶性グアニル酸シクラーゼを活性化する薬物には、ニトログリセリンなどの硝酸薬がある。硝酸薬は、一酸化窒素(NO)を遊離させることで可溶性グアニル酸シクラーゼを活性化し、細胞内cGMP濃度を上昇させることで血管拡張作用を示すため、前負荷及び後負荷を共に軽減させる。
解説動画1 ( 29:19 )
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