薬剤師国家試験 令和08年度 第111回 - 一般 実践問題 - 問 266,267
75歳男性。身長165 cm、体重58 kg。数年前に高血圧症及び心房細動を発症し、脳塞栓症の発症リスクが高いことから、近隣のクリニックを受診しており、内服薬(処方1及び処方2)にて経過観察中である。心拍数と血圧は良好にコントロールされている。

クリニックでの定期受診の際、爪甲の変色と肥厚から爪白癬と診断された。外用薬の塗布にて経過観察していたが、効果が不十分であったことから、処方3が追加された。患者は処方1、処方2及び処方3を持ってかかりつけ薬局を訪れた。

(検査値)
Hb 10.2 g/dL、血小板 22×104/µL、血清クレアチニン 0.83 mg/dL、
eGFR 68 mL/min/1.73 m2
問266(実務)
薬局薬剤師が処方箋を受け取った際、医師に処方提案すべき内容として最も適切なのはどれか。1つ選べ。
1 イトラコナゾールとの併用による出血リスクを回避するため、処方1の薬剤をリバーロキサバン錠へ変更する。
2 イトラコナゾールによりメチルジゴキシンの血中濃度が低下するため、メチルジゴキシンの用量を増量する。
3 イトラコナゾールによりダビガトランの血中濃度が上昇するため、処方3の薬剤をテルビナフィン塩酸塩錠へ変更する。
4 イトラコナゾールの吸収低下を避けるため、処方3の薬剤の用法を朝食直後から朝食前へ変更する。
5 イトラコナゾールの薬効への影響を考慮し、ビソプロロール服用を一時中止する。
問267(薬剤)
前問の処方提案の理由に最も深く関係する薬物相互作用の機序はどれか。1つ選べ。
1 肝臓における有機アニオントランスポーターOATP1B1の阻害
2 肝臓におけるUDP-グルクロン酸転移酵素UGT1A1の阻害
3 消化管におけるCYP3Aの阻害
4 消化管におけるP-糖タンパク質の阻害
5 消化管内pHの変動による溶解性低下
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問266 解答 3
本症例では、心房細動に伴う脳塞栓症予防としてダビガトランエテキシラート(処方1)が投与されている。ダビガトランエテキシラートは、消化管でP-糖タンパク質(P-gp)の基質となるプロドラッグであり、P-糖タンパク質阻害薬との併用で血中濃度が上昇し、出血リスクが増大する。今回追加された処方3のイトラコナゾールは、強力なP-糖タンパク質阻害作用およびCYP3A4阻害作用をもつアゾール系抗真菌薬であり、ダビガトランとの併用は出血リスクの観点から避けるべきである(併用禁忌)。この相互作用を回避する処方提案が求められる。
1 誤
リバーロキサバンはP-糖タンパク質に加えCYP3A4の基質でもあるため、CYP3A4およびP-糖タンパク質を阻害するイトラコナゾールとの併用では血中濃度が上昇し、出血リスクが増大する(併用禁忌)。ダビガトランからリバーロキサバンへ変更しても相互作用は回避できない。
2 誤
メチルジゴキシンはP-糖タンパク質の基質であり、イトラコナゾールのP-糖タンパク質阻害により血中濃度は上昇する。低下ではなく上昇するため、増量はジゴキシン中毒を招くおそれがあり不適切である。
3 正
ダビガトランエテキシラートはP-糖タンパク質の基質であり、イトラコナゾールのP-糖タンパク質阻害により血中濃度が上昇して出血リスクが高まる。テルビナフィン塩酸塩はP-糖タンパク質やCYP3A4を阻害せず、経口で爪白癬に有効であるため、処方3をテルビナフィン塩酸塩錠へ変更することで相互作用を回避しつつ治療を継続できる。最も適切な処方提案である。
4 誤
イトラコナゾールカプセルは酸性条件で溶解性が高まり、食直後の服用で吸収が良好となる。朝食前(空腹時)への変更はかえって吸収を低下させるため不適切である。
5 誤
ビソプロロールとイトラコナゾールの間に問題となる相互作用はなく、イトラコナゾールの薬効がビソプロロールにより影響を受けることもない。ビソプロロールを一時中止する必要はない。
問267 解答 4
前問の処方提案の理由は、イトラコナゾールがダビガトランの血中濃度を上昇させ、出血リスクを高めることにある。ダビガトランエテキシラートはプロドラッグであり、消化管上皮のP-糖タンパク質の基質である。また、ダビガトラン自体はCYPによる代謝をほとんど受けない。したがって、イトラコナゾールとの相互作用の主たる機序は、消化管におけるP-糖タンパク質の阻害による吸収増大である。
1 誤
ダビガトランは肝臓の有機アニオントランスポーターOATP1B1の基質ではなく、本相互作用にOATP1B1の阻害は関与しない。
2 誤
ダビガトランの体内動態においてUDP-グルクロン酸転移酵素UGT1A1は主要な役割を果たさず、UGT1A1の阻害は本相互作用の機序ではない。
3 誤
ダビガトランはCYPによる代謝をほとんど受けないため、イトラコナゾールのCYP3A4阻害は本相互作用に関与しない。
4 正
ダビガトランエテキシラートは消化管のP-糖タンパク質の基質であり、イトラコナゾールがP-糖タンパク質を阻害することで吸収が増大し、血中濃度が上昇する。これが前問の処方提案の理由に最も深く関係する機序である。
5 誤
ダビガトランエテキシラートカプセルは酒石酸を含有し消化管内pHの影響を受けにくく設計されており、本相互作用はpHの変動による溶解性低下によるものではない。
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