薬剤師国家試験 平成28年度 第101回 - 一般 実践問題 - 問 236,237
77歳男性。3月中旬のある日、昼食の時間になり、家族が男性を探したところ、男性は農機具等が置いてある小屋でうずくまっていた。顔面は蒼白であり、声をかけてもうなずくだけで言葉が出なかった。また、足下に嘔吐物があった。支えても歩くことができなかったため、救急車で病院に搬送した。家族の話から、この男性は朝10時頃から小屋で畑仕事の準備をしていたという。診察した医師は、化学物質による中毒を疑い、検査を依頼した。
問236(実務)
病院で行うべき処置として誤っているのはどれか。1つ選べ。
1 胃を洗浄する。
2 活性炭を投与する。
3 制吐剤を投与する。
4 輸液を投与する。
5 利尿剤を投与する。
問237(衛生)
この男性の血液を検査したところ、コリンエステラーゼ活性が著しく低下していた。中毒の原因と考えられる化学物質はどれか。1つ選べ。
1 クロルピクリン
2 グルホシネート
3 パラコート
4 メソミル
5 硫酸タリウム
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問236 解答 3
化学物質による中毒が疑われた場合、化学物質の吸収阻害(胃洗浄、活性炭)、排泄促進(輸液、利尿剤)、解毒薬の投与などを行うことによって化学物質による毒性を減弱させるが、制吐剤は化学物質の排泄を遅延させるため投与しない。
問237 解答 4
1 誤
クロルピクリンは、畑などの土壌を消毒する農薬である。クロルピクリンは、気化しやすく、催涙を伴う強い刺激臭を有する。
2 誤
グルホシネートは含リンアミノ酸系農薬であり、除草剤として用いられる。グルホシネートは、植物のグルタミン合成酵素を阻害することによって、細胞内にアンモニアを蓄積させ、植物を枯死させる。ヒトがグルホシネートを摂取すると、嘔吐や下痢などの消化器症状を引き起こす。
3 誤
パラコートはビピリジウム系農薬であり、除草剤として用いられる。パラコートは、植物の細胞内に入るとNADPHなどから電子を受け取りパラコートラジカルに変換される。パラコートラジカルは、受け取った電子を酸素に渡すことによってスーパーオキシドアニオン(活性酸素)を生じる。この活性酸素が、細胞内のタンパク質やDNAを破壊することによって、植物は枯死する。ヒトが摂取した場合にも同様の反応を示し、ヒトにおいては、ポリアミントランスポーターによって肺に選択的に取り込まれて肺障害を引き起こす。
4 正
メソミルは、カルバメート系の殺虫剤であり、コリンエステラーゼを阻害することによって縮瞳、嘔吐、神経障害などを示す。
5 誤
硫酸タリウムは、主に殺鼠剤として用いられる。硫酸タリウムは、Na+,K+-ATPaseを競合的に抑制することによって、悪心・嘔吐、知覚障害、不整脈などが現れる。
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