薬剤師国家試験 平成29年度 第102回 - 一般 実践問題 - 問 196,197
70歳男性。脳腫瘍の疑いがあり、ガドペンテト酸ジメグルミン注射液を造影剤として用いてMRI検査を行うこととなった。男性は、2型糖尿病と高血圧症と診断され、以下の薬を1年間継続的に服用している。
MRI検査日1ヶ月前の検査値
血圧154/86 mmHg ALT 12 IU/L AST 25 IU/L γ−GTP 27 IU/L
eGFR 52 mL/min/1.73 m2 HbA1c 6.7%
MRI検査日の検査値
血圧143/83 mmHg ALT 34 IU/L AST 34 IU/L γ−GTP 43 IU/L
eGFR 27 mL/min/1.73 m2 HbA1c 7.0%
注)ガドペンテト酸ジメグルミン注射液の有効成分は、ガドペンテト酸メグルミンである。
問196(実務)
この男性の検査は中止になった。その理由として考えられるのはどれか。1つ選べ。
1 肝機能が低下しているので、ガドペンテト酸を代謝できない。
2 糖尿病が悪化し、患者の全身状態が悪い。
3 腎機能が低下しているので、腎性全身性線維症の発現リスクが高い。
4 ガドペンテト酸メグルミンとメトホルミン塩酸塩により、乳酸アシドーシスが引き起こされる。
5 ガドペンテト酸メグルミンがロサルタンカリウムの作用を阻害する。
問197(物理・化学・生物)
MRI及びMRI造影剤に関する記述のうち、正しいのはどれか。1つ選べ。
1 MRIでは放射線を使用しないが、X線による被曝を受ける。
2 MRIでは、体内の水などの水素原子核の緩和時間の差を利用している。
3 MRIでは、ドップラー効果により血流速度を測定することができる。
4 ガドリニウム造影剤に含まれるGd3+イオンは、反磁性を示す。
5 硫酸バリウムはMRI造影剤として用いられる。
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問196 解答 3
1 誤
ガドペンテト酸ジメグルミン注射液は、重篤な肝障害のある患者には原則禁忌であるが、本患者の肝機能の検査値は基準値(ALT:5〜45 IU/L、AST:10〜40 IU/L、γ−GTP:50 IU/L以下)の範囲内であり、肝機能の低下は認められないため、特に問題とはならない。
2 誤
糖尿病合併症予防を目的とする場合のHbA1cの目標値は7.0%未満とされている。本患者のHbA1cは6.7(MRI検査日1ヶ月前)から7.0(MRI検査日)に若干悪化しているが、この結果から血糖コントロールが不良とまで言えない。よって、糖尿病悪化により、患者の全身状態が悪いとは言えず、MRI検査が中止となった理由としては考えにくい。
3 正
ガドペンテト酸ジメグルミン注射液は、重篤な腎障害のある患者では腎性全身性線維症の発現リスクが上昇することが知られており、添付文書では「警告」として注意喚起がされていて禁忌となっている。
本患者は、MRI検査日の検査値でeGFR 27 mL/min/1.73 m2まで低下しており、これは高度の腎機能低下(15〜29 mL/min/1.73 m2)に該当するため、本剤を用いたMRI検査の中止となった理由であると推測される。
4 誤
ガドペンテト酸メグルミンとメトホルミン塩酸塩により、乳酸アシドーシスが引き起こされるという報告はない。なお、メトホルミン塩酸塩は、X線撮影に用いられるヨード造影剤と併用することで乳酸アシドーシスを引き起こすことがある。
5 誤
ガドペンテト酸メグルミンがロサルタンカリウムの作用を阻害するとの報告はない。
問197 解答 2
1 誤
MRIにはラジオ波領域の電磁波が用いられるため、X線による被曝は受けない。
2 正
MRIは、体内の水などの水素原子核の緩和に要する時間(緩和時間)が、組織や病変によって異なることを利用して画像化している診断法である。なお、緩和とは、水素原子核がラジオ波を吸収することにより基底状態の核が励起状態の核へ遷移した後、励起状態の核が微弱な電磁波を放出しながら基底状態へ戻る現象のことである。
3 誤
ドップラー効果とは、動きのある物体に超音波を照射すると、反射波の周波数が物体の速度に比例してずれる現象のことである。この効果は音波を用いることによって起こる現象のため、ラジオ波(電磁波)を用いるMRIでは利用できない。なお、超音波診断法では、ドップラー効果を利用して血管内を流れる赤血球の流れの向きや速度(血流速度)を測定することができる。
4 誤
ガドリニウム造影剤に含まれるGd3+イオンは、常磁性を示し、水素原子核の磁気緩和時間を短縮する。
5 誤
硫酸バリウムは、X線造影撮影法において、X線の吸収率が低い消化管の撮影に用いられる陽性造影剤である。
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