薬剤師国家試験 平成29年度 第102回 - 一般 実践問題 - 問 344
63歳男性。青緑色の吐物を嘔吐し、救急病院に搬送された。医師が家族から状況を聞くと、この男性は認知症であり、買い置きしておいたホウ酸団子をお菓子と間違えて3個食べてしまったという。この男性がホウ酸団子を食べてから5時間以上が経っている。
ホウ酸団子とは、ホウ酸にタマネギ、小麦粉。砂糖、牛乳を加えてつくるゴキブリ駆除剤であり、1個あたり、約3 gのホウ酸を含有している。
担当医師から薬剤師に解毒方法を急いで調べてほしいとの連絡があった。
薬剤師が調べてホウ酸についての情報は以下の通りである。
【中毒量・致死量】
中毒量:成人1〜3 g
経口致死量:成人15〜30 g
【体内動態】
ホウ酸は、経口摂取後消化管から1時間以内にはほとんどが吸収される。吸収後24時間で約50%が、96時間で90%以上が未変化体として尿中に排泄される。分布容積は小さく、血漿タンパク質にほとんど結合しない。
この男性に最も有効と考えられる処置法はどれか。1つ選べ。
1 胃洗浄
2 活性炭の投与
3 プラリドキシムヨウ化物(PAM)の投与
4 クエン酸マグネシウムの投与
5 血液透析
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解答 5
ホウ酸団子の殺虫作用は、一般の殺虫剤と比較して非常に遅効性で、ホウ酸団子を食べたゴキブリは脱水状態に陥り、最後には乾燥死する。ホウ酸団子による中毒は、経口摂取後、症状発現までに数時間かかることがあり、主な症状は消化器系症状(悪心、嘔吐、下痢)や皮膚症状(紅斑、落屑)である。その他、消化器症状ほど頻度は高くないが、神経症状、肝障害、腎障害などが起こり、重症例では脈拍微弱、頻脈、チアノーゼ、血圧低下、重度脱水、循環虚脱、過呼吸、呼吸停止をきたす場合がある。
本設問のように、認知症患者でのホウ酸団子の大量摂取による死亡例の報告があるため、処置法を知っておくことが重要である。日本中毒情報センター推奨のホウ酸団子を摂取した際の処置法を以下に示す。
家庭で可能な処置
・希釈:牛乳または水を飲ませる。(120〜240 mL、幼児15 mL/kg以下)
医療機関での処置
・特異的な治療法、解毒剤・拮抗剤なし
・基本的処置:胃洗浄、活性炭、下剤
※ただし、ホウ酸団子による中毒時の活性炭投与は、ホウ酸吸着能が限られているため勧められていない。また、下剤投与は、ホウ酸団子による中毒症状として下痢が生じるので通常投与しない。
・対症療法:痙攣対策、電解質バランスの維持、呼吸・循環管理
・血液透析:通常の治療に反応しない重症例の場合に用いる
1 誤
設問より、「ホウ酸は、経口摂取後消化管から1時間以内にほとんどが吸収される。」とあることから、胃洗浄による処置は、ホウ酸団子摂取後1時間以内が有効であると考えられる。本患者はホウ酸団子を食べてから5時間以上が経っていることから、胃洗浄による処置の有効性は低いと考えられる。
2 誤
活性炭は、毒物と吸着し、吸収を抑制するが、無機酸であるホウ酸は活性炭にほとんど吸着されない。よって、活性炭による処置の有効性は低いと考えられる。
3 誤
プラリドキシムヨウ化物(PAM)は、コリンエステラーゼに結合したリン酸基を切除することで、有機リン系農薬の解毒に用いられるが、ホウ酸団子による中毒の治療には用いない。
4 誤
クエン酸マグネシウムは、腸管運動を亢進させることにより、毒物を腸管内から排泄促進させるが、ホウ酸団子による中毒時に用いると過度の下痢や電解質異常を起こすことがあるため、通常用いない。
5 正
血液透析は、血液中の老廃物や不要な水分を除去し、血液をきれいにする方法で、分布容積が小さく、血漿タンパク質にほとんど結合しない中毒物質などの除去に有用である。本症例は、ホウ酸団子摂取後5時間が経過しており、ホウ酸がほとんど吸収されて血液中に移行しているため、血液透析が最も有効な処置法と考えられる。
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