薬剤師国家試験 平成30年度 第103回 - 一般 実践問題 - 問 294,295
26歳男性。統合失調症の診断を受け、ハロペリドールを処方されていた。手の震え、体のこわばりやアカシジア(静座不能)などの副作用の出現により服薬を自己中断するため、入退院を繰り返している。3ヶ月前から以下の処方に変更となった。
3ヶ月前の検査データ:体重68 kg、空腹時血糖110 mg/dL、LDL−C(低密度リポタンパク質コレステロール)130 mg/dL、HDL−C(高密度リポタンパク質コレステロール)47 mg/dL、TG(トリグリセリド)120 mg/dL
現在、患者の精神状態は安定しているが、食欲が亢進し、栄養指導しても過食になることが多い。
現在の検査データ:体重76 kg、空腹時血糖110 mg/dL、LDL−C 138 mg/dL、HDL−C 42 mg/dL、TG 150 mg/dL
服薬指導の際に、患者から「体重増加は困るので、薬を変えて欲しい」との訴えがあった。
問294(病態・薬物治療)
この患者の病態及び治療に関する記述のうち、正しいのはどれか。1つ選べ
1 オランザピンの服用により糖尿病を発症している。
2 錐体外路症状は、漏斗下垂体のドパミン神経の過剰興奮によって起こる。
3 オランザピンはハロペリドールよりも錐体外路症状を起こしにくい。
4 オランザピンによる悪性症候群の発症はない。
5 体重増加はオランザピンに特徴的な副作用であり、他の抗精神病薬では認めない。
問295(実務)
薬剤師が患者の訴えを医師に伝えたところ、代替薬を検討することになった。副作用発現の観点から推奨できる薬物として、最も適切なのはどれか。1つ選べ。
1 ク口ルプロマジン塩酸塩
2 クロザピン
3 クエチアピンフマル酸塩
4 スルピリド
5 アリピプラゾール
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問294 解答 3
1 誤
オランザピンは、MARTA(多元受容体標的化抗精神病薬)であり、ドパミンD2受容体および
セロトニン5-HT2A受容体を遮断することで統合失調症の陽性症状および陰性症状を改善する。本剤は重大な副作用として、著しい血糖値の上昇による糖尿病性ケトアシドーシスや糖尿病性昏睡を起こすおそれがあるため、緊急安全性情報(イエローペーパー)が発出されている。
ただし、本患者の空腹時血糖110 mg/dL(基準値:126 mg/dL以下)であるため、糖尿病は発症していない。
2 誤
錐体外路症状は、ドパミンD2受容体遮断薬などで黒質-線条体系のドパミン神経が過剰に抑制されることによって起こる。そのため、D2受容体遮断作用の強いハロペリドールなどの定型抗精神病薬の方が、オランザピンなどの非定型抗精神病薬よりも錐体外路症状を起こしやすい。
3 正
解説2参照
4 誤
悪性症候群は、急激なドパミン神経の機能低下によって起こりやすいため、ドパミンD2受容体遮断作用を有する抗精神病薬は、副作用として悪性症候群を起こす可能性がある。
5 誤
体重増加はMARTAに見られやすい副作用であり、オランザピンだけに特徴的な副作用ではない。
問295 解答 5
本患者は統合失調症の診断を受け、ハロペリドールを服用していたが、手の震え、体のこわばりやアカシジア(静座不能)などの錐体外路障害の副作用が出現したため、錐体外路障害を起こしにくい非定型抗精神病薬のオランザピンに処方が変更されたと考えられる。しかし、オランザピンなどのMARTAは副作用として血糖上昇や体重増加を起こすことが多く、本患者もその体重増加に悩んでおり、処方を変更してほしいとの訴えをだしている。そのため、体重増加を起こしにくい非定型抗精神病薬を代替薬とする必要があり、本選択肢中ではアリピプラゾール(DSS:ドパミンシステムスタビライザー)が最も適切である。
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解説動画1 ( 10:44 )
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