薬剤師国家試験 令和03年度 第106回 - 一般 実践問題 - 問 230,231
問230〜231
72歳男性。1ヶ月前に妻と死別後独居となり、毎日ほとんど食事をとらず、アルコールを多量に摂取していた。ある朝、娘が自宅を訪れたところ、意識消失状態で床に倒れていたため、救急車を呼び救急病院に搬送された。診察の結果、ウェルニッケ脳症を疑い、治療を開始した。
入院時所見:
身長167 cm、体重50 kg、尿量30 mL/h
血清クレアチニン値0.65 mg/dL、Na 150 mEq/L、K 4.0 mEq/L
問230(実務)
入院時に投与するのが適切なのはどれか。2つ選べ。
1 高カロリー輸液
2 生理食塩水
3 5%ブドウ糖加酢酸リンゲル液
4 ビタミンB1製剤
5 カリウム製剤
問231(衛生)
この患者の病態と栄養状態に関する記述のうち、誤っているのはどれか。1つ選べ。
1 十分な食事をしていないため、エネルギー代謝の主体が、脂肪やタンパク質から糖中心に変わっていると考えられる。
2 この患者では、グルコースからのATP産生が低下していると考えられる。
3 この患者におけるウェルニッケ脳症の発症には、アルコールの多量摂取が関与している。
4 この患者に一般食(2000 kcal/日)を与えると、ウェルニッケ脳症が悪化すると考えられる。
5 この患者に一般食(2000 kcal/日)を与えると、リフィーディングシンドロームを引き起こすことがある。
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問230 解答 3、4
本患者は、「毎日ほとんど食事をとらず」とあることから。低栄養状態であることが考えられる。また、それに加えて「アルコールを多量に摂取していた」「意識消失状態」とあることから、アルコールの代謝によるビタミンB1の減少、かつビタミンB1の摂取量減少によりビタミンB1欠乏症であるウェルニッケ脳症を発症したと考えられる。
1 誤
低栄養状態にある患者にいきなり高カロリー輸液を投与すると、リフィーディングシンドロームを起こす恐れがあるため、エネルギーを制限して投与する必要がある。そのため、本患者には低栄養状態の改善を目的に5%ブドウ糖加酢酸リンゲル液を投与するのが適切である。
2 誤
ナトリウム値に異常が見られないため、本患者への生理食塩液の投与は適切ではない。
3 正
解説1参照
4 正
ビタミンB1不足によりウェルニッケ脳症が起こったと考えられるため、本患者へのビタミンB1製剤の投与を行うことは適切である。
5 誤
カリウム値に異常が見られないため、本患者へのカリウム製剤の投与は適切ではない。
-参考ー
【リフィーディングシンドローム】
リフィーディングシンドローム(refeeding syndrome)とは、慢性的な栄養不良状態が続いている患者に積極的な栄養補給を行うことにより発症する一連の代謝合併症の総称である。症状としては、心不全、不整脈、呼吸不全、意識障害などさまざまな症状が報告されている。
(発症メカニズム)
高度の低栄養状態になるとエネルギー代謝の主体は、糖を主体としたものから体タンパク質の異化や脂肪分解を中心としたものへと変わっていく。さらにミネラルやビタミンなどの不足も併発する。このような状態での急激な糖質の体内への流入は、インスリン分泌を刺激し、摂取された糖質は細胞内に取り込まれATP産生に利用される。その際、大量のリンが消費され、同時にカリウム、マグネシウムが細胞内に移動するため、それぞれの欠乏症状が出現する。特にリン欠乏によりATPが減少するため、ATPを多く利用する脳、心臓、筋肉の臓器障害が特に顕著である。また、糖代謝によりビタミンB1が消費されて欠乏症がおこり、心不全やウェルニッケ脳症、乳酸アシドーシスなどの症状が出現する。
問231 解答 1
1 誤っている
通常ヒトはグルコースを主としてエネルギーを産生しているが、低栄養状態ではグルコース量が不足しているため、グルコースからエネルギーを産生することが困難である。代わりに貯蔵脂質の分解(脂質の代謝)や筋肉の分解(タンパク質の代謝)によりエネルギーを産生している。したがって、本患者ではエネルギー代謝の主体が糖質から脂肪やタンパク質中心に変わっていると考えられる。
2 正しい
解説1参照
3 正しい
問230解説参照
4 正しい
本患者は、ビタミンB1の欠乏が原因でウェルニッケ脳症が起こったと考えられる。ビタミンB1は糖質の代謝に関与するビタミンであり、一般食(2000 kcal/日)を与えると、急激にビタミンB1が利用され、ウェルニッケ脳症が悪化してしまう危険性があるため、避けたほうが良い。
5 正しい
本患者は、低栄養状態にあるリフィーディングシンドロームの高リスク群である。そのため、一般食(2000 kcal/日)を与えると、リフィーディングシンドロームを引き起こすことがある。また、投与エネルギーとしては、現体重×10 kcal/kg/日(重症では5 kcal/kg/日)」程度から開始し、モニターしながら100〜200 kcal/日ずつ増量していき、1週間以上をかけて目標量(25〜30 kcal/kg)まで増やすことが望ましい。
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解説動画1 ( 06:38 )
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