薬剤師国家試験 令和05年度 第108回 - 一般 実践問題 - 問 228,229
70歳男性。体重65 kg。ループス腎炎と脳梗塞に対して、それぞれタクロリムスカプセルとワルファリン錠を服用していた。2週間前から微熱、咳、痰、寝汗などが続き、昨日、痰に血が混じっていたため、不安を感じて病院を受診した。胸部CT検査で両側に空洞化を伴う多発性浸潤陰影を認め、喀痰の塗抹検査で病原体が検出されたため、入院し、直接服薬確認療法(DOTS)が行われることとなった。
(入院時の検査値)
AST 26 IU/L、ALT 27 IU/L、血清クレアチニン1.8 mg/dL、血清アルブミン3.6 g/dL、総ビリルビン0.7 mg/dL
問228(衛生)
この患者の呼吸器症状の原因となった病原体に関する記述として正しいのはどれか。2つ選べ。
1 体内に侵入後、肺胞マクロファージ内で増殖する。
2 本病原体による感染を予防するためにBCGワクチンが用いられている。
3 蚊などの節足動物が媒介することで感染する。
4 2010年頃から罹患率が上昇しているため新興感染症に位置付けられている。
5 近年、我が国における罹患率は、米国やドイツなどの先進国における罹患率に比べて低い。
問229(実務)
主治医より、イソニアジド錠、リファンピシンカプセル、エタンブトール錠、ピラジナミド錠の4剤でDOTSを開始することが薬剤師に伝えられた。薬剤の服用にあたり、薬剤師が主治医に伝えるべき内容として、正しいのはどれか。2つ選べ。
1 肝機能障害があるため、イソニアジドの使用を避けるべきである。
2 ワルファリンの作用が減弱することがある。
3 視神経障害が現われることがあるため、定期的に視力等を確認する必要がある。
4 腎機能障害があるため、エタンブトールを他剤に変更すべきである。
5 タクロリムスの血中濃度が上昇することがある。
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問228 解答 1、2
以下の3点よりこの男性が結核に罹患している可能性が高いと考えられる。
「胸部CT検査で両側に空洞化を伴う多発性浸潤陰影を認める」
「喀痰の塗抹検査で病原体が検出」
「直接服薬確認療法(DOTS)が行われる」
1 正
結核菌は、他の生物の細胞内で増殖可能な細胞内寄生体
2 正
結核菌の感染予防のため、BCGワクチンが用いられている。
3 誤
結核菌の感染経路は主に空気感染である。
蚊が媒介する感染症はいくつか知られているが、結核は蚊などの節足動物が媒介する感染症ではない。
4 誤
我が国の結核の罹患状況は、先進国の中で唯一「中まん延国」という評価をされてきたが、2021年に罹患率が10を切り、「低まん延国」となった。しかし、大都市の一部の結核罹患率は依然群を抜いており、集団感染事例もあとをたたない。さらに、エイズの世界的蔓延によってHIV感染者が増加する中で、結核との重複感染者の重症化が危惧されている。これらなどのことから、結核の感染者数は減っているが、再興感染症に位置づけられている。
5 誤
2020年の我が国の結核罹患率は10.1であり、先進国(アメリカ:2.4、ドイツ:5.5)の中では高い傾向にある。
問229 解答 2、3
1 誤
この患者の入院時の検査値は、AST 26 IU/L(基準値:10〜40 IU/L)、ALT 27 IU/L(基準値:5〜40 IU/L)であるため、肝機能障害ではない。そのため、この患者に対してイソニアジドの使用を避ける必要はない。
2 正
リファンピシンは、ワルファリンの代謝酵素であるCYP2C9を誘導する作用をもつ。そのため、リファンピシンとワルファリンを併用するとワルファリンの作用が減弱するおそれがある。
3 正
エタンブトールの副作用に視力障害があるため、エタンブトールを服用する患者は定期的に視力検査を行う必要がある。視神経障害の症状としては視力の低下、視野の狭窄、色覚異常などが挙げられる。定期的な視力検査等を行うことで、早期に視神経障害を発見し、適切な対応を取ることが重要である。
4 誤
エタンブトールは、腎機能が低下した患者や高齢者において、副作用が発現しやすい傾向にあるとされている。本患者の血清クレアチニン値は1.8 mg/dLであるため、基準値(男性:0.7〜1.2 mg/dL)を上回っており、腎機能が低下しているが、投与禁忌ではない。そのため、定期的に腎機能の確認や視力測定を行い、患者の状態を観察しながら本剤を投与すれば、多剤への変更は必要ないと医師に伝える。
5 誤
リファンピシンは、タクロリムスの代謝酵素であるCYP3A4を誘導する作用をもつ。そのため、リファンピシンとタクロリムスを併用するとタクロリムスの血中濃度が低下することがある。
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