薬剤師国家試験 令和05年度 第108回 - 一般 実践問題 - 問 278,279
56歳男性。身長175 cm、体重52 kg。肝細胞がんに対し、腹腔鏡下肝切除術を施行後であり、末梢静脈輸液にて栄養管理している。現在、以下の輸液を1日3回末梢静脈から投与している。なお、本輸液はダブルバッグ製剤であり、成分が2室に分けられている。術後2日目の検査値より、カリウム製剤(L−アスパラギン酸カリウム注射液10 mEq/10 mL、1アンプル)、及び静注用脂肪乳剤(イントラリポス輸液20% 100 mL、1バッグ)を追加することとなった。
(検査値:術後2日目)
白血球18,000 /µL、赤血球200×104 /µL、Hb8.7 g/dL、血小板30×104 /µL
総タンパク7.5 g/dL、血清アルブミン3.3 g/dL、AST 27 IU/L、
ALT 40 IU/L、BUN 20 mg/dL、血清クレアチニン0.7 mg/dL、
Na 132 mEq/L、K 3.1 mEq/L、Cl 103 mEq/L
問278(薬剤)
このダブルバッグ製剤に関する記述のうち、正しいのはどれか。2つ選べ。
1 バッグを両手で強く押すことにより、隔壁部を開通させる。
2 アルドール反応を抑えるために2室に分かれている。
3 上室と下室を混合することにより輸液のpHは中性になる。
4 上室にアミノ酸と糖、下室に電解質とビタミンB1を含む。
5 添加剤としてpH調節剤、保存剤が加えられている。
問279(実務)
この患者への輸液等の投与に関する記述のうち、適切なのはどれか。1つ選べ。
1 1回500 mLあたり、30分で投与する。
2 カリウム製剤は、ワンショットで静注する。
3 本患者には、末梢静脈栄養のみで2ヶ月以上管理することが推奨される。
4 静注用脂肪乳剤を追加することで、NPC/N比を高めることができる。
5 血管痛が起こった場合は、全量投与した後に、漏出部位を処置する。
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問278 解答 1、3
ダブルバッグ製剤は、投与前の輸液でのメイラード反応(アミノ酸と糖の反応)を抑えるために、アミノ酸を含む輸液と糖を含む輸液を上室と下室に分けて封入した製剤であり、投与直前にバッグを両手で強く押すことにより、隔壁部を開通させることで、2つの輸液を無菌的に混合調製できる製剤である。
1 正
前記参照
2 誤
ダブルバッグ製剤は、アルドール反応ではなく、メイラード反応を抑えるために2室に分かれている。なお、アルドール反応とは、ケトンやアルデヒドなどのカルボニル化合物同士の求核付加反応である。
3 正
このダブルバッグ製剤(ビーフリード®️輸液)は上室のpHが6.3〜7.3、下室のpHが3.5〜4.5であり、混合することにより輸液のpHは中性(約6.7)となる。
4 誤
ダブルバック製剤では、メイラード反応を避けるためアミノ酸と糖は別室に封入されている。なお、このダブルバッグ製剤(ビーフリード®️輸液)は、上室にアミノ酸と電解質、下室に糖と電解質とビタミンB1を含む。
5 誤
輸液剤のような大量投与する注射剤には、保存剤は添加しない。なお、このダブルバッグ製剤(ビーフリード®️輸液)には、pH調節剤として上室に氷酢酸、下室に水酸化ナトリウムと塩酸が加えられている。
問279 解答 4
1 誤
この輸液(ビーフリード®️輸液)は、通常、1回500 mLあたり、120分で投与する。
2 誤
カリウム製剤を急速に投与すると不整脈や心停止を起こすため、ワンショットで静注してはならない。
3 誤
末梢静脈栄養(PPN)は、腕などの末梢静脈から栄養輸液を投与する方法であり、浸透圧等の兼ね合いで1日に投与できるエネルギー量に上限があるため、食事ができない期間が2週間よりも短期間の場合に用いられる。したがって、末梢静脈栄養のみで2ヶ月以上管理することは不適切である。なお、2週間以上にわたって静脈栄養法を施行する場合は、中心静脈栄養(TPN)を用いる。
4 正
NPC/N比とは、糖や脂質といったタンパク質以外のカロリーの総和(非タンパクカロリー:NPC)をアミノ酸由来の窒素の量(窒素:N)で除した値であるため、静注用脂肪乳剤を追加することで、非タンパクカロリーが大きくなり、NPC/N比を高めることができる。なお、NPC/N比は投与されたアミノ酸が生体内で有効利用されるかどうかを表す指標であり、通常150程度(窒素1 gに対して150 kcalのNPC)で最も効率よくアミノ酸が生体内で有効利用される。
5 誤
血管痛が起こった場合は、投与を一旦中断し、注射部位の変更または投与の中止を検討する。なお、血管痛が起こったままの状態で全量投与は行わない。
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解説動画1 ( 04:31 )
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