薬剤師国家試験 令和05年度 第108回 - 一般 実践問題 - 問 290,291
22歳女性。身長163 cm、体重39 kg。希死念慮があり、市販薬を大量に服用した。自室でぐったりしているところを母親が発見し、救急搬送となった。部屋には、1箱20錠入包装の鎮痛剤(1錠中アセトアミノフェン300 mg含有)の空箱2箱と40錠分の空のPTPシートがあり、アルコール飲料の350 mL缶が多数散乱していた。母親の話から、服用後約7時間程度経過していることがわかった。病院到着時、バイタルサインの大きな問題はなかった。
問290(病態・薬物治療)
この患者の病態及び治療に関する記述として、正しいのはどれか。2つ選べ。
1 肝細胞の脂肪変性が見られる。
2 アセトアミノフェンの代謝物が肝細胞を障害している。
3 低栄養がアセトアミノフェンの毒性を増強している。
4 薬用炭の経口投与が有効である。
5 アドレナリンの筋注が必要である。
問291(実務)
救急科において、医師と薬剤師により治療方針に関するカンファレンスが行われた。対応として誤っているのはどれか。1つ選べ。
1 患者がアルコールを当日飲んでいたかどうかを母親に確認する。
2 解毒剤投与の前に、胃洗浄を優先して実施する。
3 患者の治療経過のモニターとして、肝機能検査を実施する。
4 血中アセトアミノフェン濃度を測定する。
5 解毒剤は特異な匂いがあるため、投与時はソフトドリンクなどに混合する。
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問290 解答 2、3
アセトアミノフェンは、通常体内でグルクロン酸抱合や硫酸抱合を受け代謝されるが、過量摂取時は、グルクロン酸抱合や硫酸抱合が飽和し、CYP2E1による代謝に伴ってN−アセチル−p−ベンゾキノンイミンが産生し、これが生体高分子と結合することで肝細胞障害をきたす。
1 誤
肝細胞の脂肪変性は、肥満や過栄養などでみられる変性所見であるが、アセトアミノフェン中毒では認められない。
2 正
前記参照
3 正
アセトアミノフェンの代謝物であるN−アセチル−p−ベンゾキノンイミンは、グルタチオン抱合により代謝・解毒される。低栄養状態では、グルタチオンの欠乏が生じるため、N−アセチル−p−ベンゾキノンイミンが代謝されにくくなり、毒性が増強するおそれがある。
4 誤
薬用炭は、主に消化管内の薬物を吸着することで薬物の吸収を抑制する。そのため、消化管に薬物が残存している1時間以内の投与が有効とされている。本患者は、アセトアミノフェン服用後、7時間程度経過しており、消化管内に薬物が残存しているとは考えにくいため、薬用炭の経口投与は有効ではない。
5 誤
アドレナリンの筋注は、アナフィラキシーショックに伴う昇圧や気道拡張を目的に投与される。本患者のようなアセトアミノフェン中毒の改善には用いられない。
問291 解答 2
1 正しい
アルコールを大量摂取した際は、CYP2E1が誘導されることが知られている。アセトアミノフェンはCYP2E1により代謝されN−アセチル−p−ベンゾキノンイミンとなり毒性を発現するため、母親にアルコールの摂取状況を確認するのは適切である。
2 誤っている
胃洗浄は、胃内に残存する薬物を除去する処置であり、消化管に薬物が残存している1時間以内であれば実施を考慮する。本患者は、アセトアミノフェン服用後、7時間程度経過しており、消化管内に薬物が残存しているとは考えにくいため、胃洗浄を優先して実施するのは適切ではない。
3 正しい
アセトアミノフェン中毒では肝細胞障害を認めるため、肝機能検査の実施は適切である。
4 正しい
本患者はアセトアミノフェン中毒が疑われるため、血中アセトアミノフェン濃度を測定することは適切である。
5 正しい
アセトアミノフェン中毒の解毒には、グルタチオンの前駆物質であるN−アセチルシステインが用いられる。N−アセチルシステインは、特異な匂い、味があり、投与により嘔気嘔吐が発現することがあるため、ソフトドリンクなどで希釈し服用させる。
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解説動画1 ( 12:48 )
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